第176話 何もない自分
「あー暑くなってきたなぁ…」
季節は夏に突入。
俺は日課のロードワーク中、少し休憩とばかりに公園のベンチに座る。朝のまだ完全に日が昇ってない涼しい時間なのに、汗はダクダクである。
「あら、拳聖君。今日も頑張ってるわねぇ」
「おはよーございまーす」
犬を連れて散歩しているお婆様に声を掛けられて、とりあえず挨拶を返しておく。俺が走ってる時に良く見かける人だ。名前は知らないけど。
その後も続々と公園にご老人が集まって来て、井戸端会議が始まる。大半は話の脈絡もなく、正直何を言ってるか分からない事もあるんだけど、何故か会話は成立している。
「うむ。もう腹の調子は完璧だな」
シャドーボクシングをしながら、自分の体の調子を確かめる。ずっと鈍痛があった殴られまくったボディ。そこが最近になってようやく治った。
やはりどれだけ鍛えても痛いもんは痛い。意地を張った代償だな。
「あーチャンピオンだー!」
「いかにも。俺様がチャンピオンだ」
そろそろ帰ろうかと思ったら、いつの間にか子供達の登校の時間になっていたらしい。意外と子供人気がある俺である。
キャッキャと近寄ってくる子供達と少し交流して家に帰った。小学校低学年ぐらいの女の子に汗臭いって言われて傷付きました。まる。
「お絵描きお絵描きふんふふーん」
家に帰ってシャワーを浴びて、そこからは自由時間。まだ試合が終わって1週間も経ってない。本格的な練習はまだするなって言われて暇なのである。
って事で、自分の新しいジャージを作る為にお絵描きする。一応俺ブランドのアパレル会社があるので。
一般にはそんなに売れてないけど。ボクシングファンは結構買ってくれてるみたいだから、一応の利益は出てる。
午前中はそんな感じで過ごして午後。暇なのでジムに顔を出してみる。
黒木さんと赤城さんも試合後だから居ないし、孤南君はまだ学校である。遊び相手が居ない。
仕方ないから会長と茶を飲みながら雑談をして1.2時間ほど時間を潰して、ジムを後にする。
せっかく外に出たしって事で、車でショッピングモールに出向いて、特にアテもなくウィンドウショッピング。
偶に俺の事を知ってる人に出会って、サインやら写真やらを求められる。勿論快く応じる。こういう地道な活動も大事なのだ。
結局ショッピングモールでは何も買わずに、そのまま家に帰宅。
妹の聖歌がリビングで最近流行りの曲を熱唱してたのを目撃してしまい、恥ずかしそうに顔を赤らめてポカポカと殴られ。
晩御飯を食べていつの間にか就寝の時間。
「俺の一日ってなんなんだろうな」
ボクシングが無かったら、マジで何もない。今日一日ブラーっとして良くわかった。
趣味もないし、特にやりたい事もない。
なんて張り合いのない人生なんだ。ボクシングと出会わなかった自分、特典を持ってない自分を想像すると震えてくるぜ。
まあまあのクソ人間になってたんじゃないかな。
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