第173話 タフ
『き、決まったぁー! 皇選手のアッパー一閃! 長いラッシュの一瞬の間隙を縫ったアッパーが炸裂っ!! ホセ選手この試合二度目のダウン!! 物凄い倒れ方をしたぞ!? 大丈夫なのか!?』
「ワン! ツー! スリー!」
タイミングは完璧だった。俺が狙ってた通りにアッパーは決まった。でも直前で顎とパンチの間にグローブを挟まれてガードされたのが気になる。
ホセ選手も意識はあるみたいで、動いて立とうとしてるっぽいしね。あれがなけりゃ、カウント無しの文句なしKOだったのに。
カウントが5の所で、ホセ選手は起き上がり、膝を付いてギリギリまで体力を回復しようとした。
しかし。
『ホセ選手が起き上がり…あーっと尻餅を付いた! そして首を横に振った! ここで審判がカウントを止めました!! 皇選手! またもやKO勝利!! この怪物! 『歩く災害』を止められるボクサーはいないのか!? 連続KO記録をまた伸ばしました! そしてウェルター級の二団体制覇も達成! やりました皇拳聖!!』
ホセ選手が尻餅を付いたところで、苦笑いしながら首を横に振ってギブアップアピール。それを見て審判が試合を止めた。
「ふぃー」
俺は勝ったと分かって大きく息を吐いた。2Rしか戦ってないのに、今日はちょっと疲れたな。ムキになって足を止めて打ち合い過ぎた。
賢い戦い方とは言えなかっただろう。ボディに何回か良いのを貰っちゃったしさ。俺もまだまだ子供だったってこった。あんな簡単にムキになっちゃうなんて。
「拳聖!」
「うぇーい」
父さんがリングに上がってきて、いつも通り拳を付き合わせる。けど、今日はちょっとご立腹なようで。
「帰ったら説教だ」
「へい」
耳元でボソッと呟かれちゃった。まあ、仕方ない。誰がどう見てもあそこは離れて、戦うのが正しかったはずだ。今回は偶々上手くいったけど、それが毎回上手くいく保証なんてない。
正しい立ち回りが全てとは言わない。時には悪手でも引いたらダメな時がある。まあ、それは今日じゃなかったよねって話で。
甘んじて説教は受け入れようと思います。
さぁさぁ。気を取り直して試合後インタビューですよ。いつもは当たり障りない世間が喜びそうな事しか言ってないけど、今日は違う。
ちょっとだけガンホ選手を挑発する予定なのだ。
っとその前に。
「ありがとうございました」
既に立ち上がってトレーナーと話をしているホセ選手に挨拶に向かう。顎にグローブを挟んだとはいえ、あの渾身のアッパーを受けて意識を保ってるのに驚きだし、もう立ち上がって普通に話をしてるのも驚きだ。
マジで一瞬アッパーで身体を浮かせたんだけどな。流石に10カウントで立ち上がるのは無理だったみたいだけど、ちょっとタフすぎませんかね。
ホセ選手は何を言ってるか分からないけど、笑いながら身振り手振りで、気持ちを伝えてくれる。最後に軽くハグをしてリングを降りて行った。
正直やりにくい相手だったな。あそこまで割り切って超接近戦を挑んでくるとは思わなかった。無策の突進にもびっくりしたし。
でも良い経験にはなった。この経験を活かしてガンホをボコボコのボコにすると誓うよ。
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