第172話 VSウェルター級ホセ4


 『第2R開始早々からリング中央でパンチの応酬だー! 既に1分が経過してますが、両者お互いに譲りません! 意地と意地のぶつかり合い! 観客席も大盛り上がりです! はたして一体どちらが先に折れるのかー!?』


 第2Rが始まって、予想通りホセ選手は突っ込んできた。おいおい、さっきの二の舞になるぞと思ってたら、なんとホセ選手はノーガードで突っ込んできたのだ。


 そこで俺は一瞬止まって戸惑ってしまった。セコンドで父さんと話してた通り、何か隠し玉でもあるんじゃないかと思って。


 が、結論から言うとそんなものは無かった。ホセ選手は本当に馬鹿正直に、ノーガードで突っ込んで、俺の懐に潜り込んできたのだ。


 ちょっと考え過ぎたのが裏目に出た。ノーガード戦法を貫いてる俺が言うのもなんだけど、まさかノーガードで突っ込んで来るとは思ってなかったのだ。


 そこからはリング中央で超至近距離のインファイト合戦。だけど、微妙に俺の方が旗色が悪い。俺はリーチが長い。だから、ここまで身体が密着するほどべったり張り付かれたら、力のあるパンチが出しにくいのだ。


 出しにくいってだけで出せない訳じゃない。当然この距離が俺にとって不利なのは分かってるし、そこを突いてくる相手もそのうちいるだろうと思ってた。


 だから、対策はしっかりしてあるつもりだったんだけど。中々どうしてやり辛い。ホセ選手は意地でも離れたがらないし、この距離でも効果的なパンチを連発してくるから、隙が出来ない。


 さっきからボディに何発か良いのをもらって、ちょっと痛いし。まあ、すぐにでもどうにかする方法はあるんだけどさ。


 この距離での打ち合いはやめて、足を使って逃げれば良い。流石に俺が逃げに徹すれば、この距離からも脱出は出来る。


 じゃあなんでそれをやらないのって言われれば、なんか負けた気がして嫌だからである。まあ、実際この距離での打ち合いは負けてるんですけどね。


 「グッ…」


 『ボディー!! ホセ選手の左フックが皇選手のボディを捉えた! 少し皇選手の方が分が悪いか!? 先程からボディに良いパンチをもらってる様に見えます!』


 流石チャンピオン。ボディも良い場所を狙ってくる。常日頃からスパーリング三銃士にボディを虐めてもらって無かったら、耐えれてないかもしれん。


 「拳聖ー!! 一旦離れろ!!」


 セコンドから父さんの指示が聞こえる。やっぱり今俺がやってる事は馬鹿ですよね。自分の不利な距離で、相手の得意距離と戦ってるんだから。


 でもそろそろ。そろそろなはずなんだ。


 俺は来るであろう瞬間を見逃さないように、パンチを捌きつつ、ホセ選手を観察する。


 俺を逃がさないように必死に張り付いて、ずっとパンチを打ってる。合間合間に息継ぎをしてるけど、疲れない訳がない。


 そしてその瞬間はやってきた。


 ホセ選手が大きく息を吸う為に顔を上げた。俺はそれに合わせて、ぶつかり合ってた自分の身体を半身に。


 その勢いのまま、顎を目掛けてアッパーをぶちかます。


 ホセ選手はギリギリのタイミングで顎に手を差し込んだが、俺はお構い無しにパンチを振り切った。


 ホセ選手の身体が一瞬浮き、マウスピースが飛んでいく。


 そしてマットに沈んだ。

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