第174話 宣戦布告
「ウェルター級二団体制覇おめでとうございます」
「ありがとうございます」
試合が終わって、ホセ選手がリングを去って行って、チャンピオンベルトを腰に巻いて。
俺はリングの上でインタビューを受けていた。いつもは当たり障りない事しか言わないので、あまり優等生過ぎて面白くないと陰で言われてるらしい俺の受け答え。
礼儀正しいのも悪い事じゃないけど、ボクシングとは野蛮な言い方をすると、人をボコボコにするスポーツだ。
当然血の気が多い人が大多数だし、トラッシュトークも日常茶飯事。闘争心が足りないだとか、試合前に舐められ過ぎてるだとか。
アンチっぽい人はそう言う事を言って叩こうとしてるらしい。まあ、正直俺は掲示板とか見てないから、人伝に聞くんだけど。
アンチなんて気にしてられないし、ネットに書き込んで文句を言う事しか出来ない奴らの事を一々間に受けてられない。
正面から堂々と言ってくる奴だけ相手にします。俺相手にそんな事を言える奴が居るのかは知らんが。ボコボコにしちゃうかもしれん。
いや、これは流石に冗談だけど。ボクサーの暴行事件で一般人より罪が重いし。
その点ガンホ選手の方がまだ良いかもな。今は無様に逃げ回ってるとはいえ、はっきり自分が発信したと分かる形で、煽って来てたんだから。
………いや、言うだけ言って、いざ自分にお鉢が回ってくると逃げ回るのは、ネット民と大して変わらんか。開示請求されて逃げてるみたいなもんだし。
まあ、それはさておき。
内心でそんな事を考えながら、いつも通りインタビューに答えていく。ジムのトレーナーやスタッフがサポートしてくれたお陰ですとか、ホセ選手の戦法にはびっくりしましただとか。
本当に当たり障りない事だ。
で、最後に一言お願いしますと言われたところで、ようやく本番。なんかちょっと試合より緊張するな。
「えーと。次戦の事なんですけど。俺としてはさっさと階級を上げて、スーパーウェルター級に行きたいんですよね。でも、一人だけどうしても対戦しなきゃいけない相手がいまして」
俺がそこで言葉を区切ると、不思議と会場はシンと静まり返る。いつも通りなら次の試合も応援お願いしますーとか言って、さっさと終わらせるからな。
観客の皆様もなんかいつもと違うぞってのを感じ取ったのかもしれない。
「ウェルター級に来てから毎度の様に対戦のオファーは出してます。それでも対戦が実現しないのは、相手がずっと逃げ回ってるからです」
「俺がウェルター級に来る前に散々煽ってきたのを俺はずっと根に持ってます。ねちっこいとか言われても構いません。その選手と戦うまで、どれだけ減量がキツかろうが、ずっとウェルター級にいます」
「そろそろ観念しましょう。試合会場もどこでも良い。とにかくお前をボコボコにしないと、俺の気が済まない」
「おい、ガンホ。お前の事だぞ。いい加減逃げ回るのはやめて俺と戦え。今ならリング上で半殺しにするだけで済ませてやる。では、そういう事で。オファー受けて下さいね」
俺はありがとうございましたーと言って、インタビュワーの人にマイクを返して、スタスタとリングを降りていく。
突然の俺の宣戦布告に会場は困惑してたものの、俺が会場を出る頃には大盛り上がりしていた。
さてさて、果たして俺の挑発は成功しただろうか。慣れないことをしたもんだから、あれで良いのかよく分かりませんよ。
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