第167話 ホセ陣営


 「毎度の事ながら、この計量が終わった後の解放された感じは半端ないな」


 「高地から平地に戻ってきた時と同じ感じだ」


 「俺はこの後記者会見があるんですけどね」


 「世界チャンピオン様は違うねぇ。俺達もあるけど、拳聖よりこじんまりとしたもんだよ」


 試合前日。黒木さんと赤城さん、そして俺は無事に計量をパスして、OS-1をちびちびと飲んでいた。うみゃい。


 全員の対戦相手もしっかりと計量をパスしていた。俺の対戦相手であるホセ選手に軽く挨拶したけど、なんか塩対応で内心ちょっとシュンとしちゃった。


 俺の勝手なイメージではメキシコの人は陽キャって感じがあったから。もっとよろしくうぇーいってなると思ってました。


 「調子に乗ってリカバリーに失敗しないで下さいよ?」


 「何年ボクサーやってると思ってんだ。今更そんな馬鹿する訳ないだろ」


 ほんとでござるかぁ? 今回勝ったらOPBFに挑戦するかもって話があるから、気合いが入ってるのは分かるけど。なんか肝心な時に失敗する気がして仕方ない。


 まあ、その辺は会長が上手くやってくれるでしょう。


 ささっ。俺は記者会見に向かいますかね。



 ☆★☆★☆★



 「見たかよ。あの皇の身体。減量末期の身体じゃねぇだろ」


 「ばっちばちに仕上がってたな」


 ホセ陣営での控え室にて、計量を終えたトレーナーとホセが話し合っていた。


 「挨拶に来た時の顔みたか? 人畜無害そうな顔しやがって。威圧してくるよりよっぽどこえぇよ」


 「試合をやる前から意気消沈してどうする。お前も歴とした世界チャンピオンなんだぞ?」


 「俺だって直接会うまでは、やる気だったさ。まだ20にもなってない若造にお灸を据えてやろうってな。だが、いざ会ってみるとそんな気概が削がれちまったよ。あれは格が違いすぎる」


 ホセは完全に萎縮してしまっていた。日本に来るまで、色々対策をして試合の準備は万端にして来たつもりだったが、相対した皇拳聖という人物に圧倒されてしまったのだ。


 「ガンホが逃げ回るのも良く分かるな。あれは本当にやばいぞ」


 「俺達もギリギリまで逃げ回ったがな」


 「ははっ。そうだったな」


 「まあ、結果としてファイトマネーが釣り上がったのは良かったが…。死んだら金も意味がない。ちゃんと生きて帰ってこいよ?」


 「それがトレーナーの言う事かよ。自分の選手の勝ちを信じろっての」


 「本人がやる前から諦めたムードじゃ、何を言っても意味がないだろ」


 ホセ陣営は諦めの境地を通り越して、和やかなムードに。これが意外と肩の力が抜けて、良い感じになっていた。


 「そう言えばガンホから、馬鹿みたいな提案があったな」


 「ああ…。金を払うから反則してでも皇を潰せだったか? 笑っちまうね。そんな事をしたら、俺のボクシングキャリアは終わりだ。流石にそこまで堕ちたくはねぇ」


 「向こうは完全に皇からターゲットにされてるからな。必死なんだろう」


 「無闇やたらと煽るからそういう事になるんだ。なんであんな馬鹿な事をしたのかねぇ」


 「日本と韓国は仲が悪いからな。サッカー然り、野球然り、どのスポーツの試合でも大抵荒れる。魂レベルで嫌悪してるんだろう」


 「ご苦労なこって。それに俺を巻き込むなってんだ」

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