第165話 くじ


 「そうか。龍宮高校に行くか」


 「ええ。指導者や練習環境は文句無しですし。切磋琢磨出来るライバルが居ないかもしれないのは少し残念ですが…」


 ジムで父さんに連絡すると、なんなら今日でも良いぞーって事で、早速練習終わりに孤南君を連れて来た。


 「まあ正直、孤南君の今の実力は同年代なら頭が一つ二つ抜けてると思うけどね」


 「天下ジムで練習してたらそうは思わないんですけど…」


 「そりゃな。普段一緒に練習してるのが、世界チャンピオンだもん。てへぺろ」


 可愛く頭をこつんと叩いて舌を出す。父さんと孤南君の反応は無。どうやらクソ滑った模様。


 まあ、黒木さんと赤城さんも、あんなんでも日本チャンピオン。日本ではかなり上澄みの人間なのだ。そんな人間と練習してるんだから、自分の実力に疑問を持ってしまうのも分かる。


 孤南君は身体が出来上がってきてるとはいえ、まだ中学三年生。流石にまだあの二人には敵わないだろう。


 「夏にアマの大会があるけど、それに出てみるか? ここらで自分の実力を確認しておくのも一つの手だろう。今ならまだエントリーに間に合うはずだ」


 「そうですね…。ちょっと考えてみます」


 なるほど。その手があったか。


 俺は対戦相手が悉く辞退するもんだから、ほとんど出なかったアマチュアの大会。孤南君なら階級的にも、相手に困るという事はないだろう。




 「わざわざ送って頂いてありがとうございます」


 「良いよ良いよ。じゃ、お疲れ様」


 「お疲れ様です」


 孤南君を車で家に送ってから、近くのコンビニに寄る。今、最近見てるアニメのくじがやってるんだ。


 俺の推しキャラのB賞が欲しい。気が向いたらコンビニに寄って、くじを引いてるんだけど、中々当たらない。


 まあ、くじを全部買い占めてやったら良いだけの話なんだけど、それは何か違うというか。引いても三回までと決めている。


 「おや? 拳聖君じゃないか?」


 「あ、美咲さん」


 スイーツコーナーを物色していたら、美咲さんに遭遇した。そう言えば、前にもこんな事があったね。


 「合宿から帰って来てたんだったね。高地トレーニングはどうだった?」


 「滅茶苦茶キツかったっす」


 お喋りしながら、カゴにスイーツを突っ込む。よく見ると、美咲さんの買い物カゴの中にもスイーツや、お菓子がいっぱい入っていた。


 「あ、こっちも一緒でお願いします。後、くじを三回」


 「良いのかい?」


 「良い格好をさせて下さいよ」


 「じゃあお言葉に甘えて」


 美咲さんの分も一緒に払う。まあ、美人に格好をつけたいってものあるが、良い事をしておくと、くじで良いのを引けるんじゃないかっていう、ちょっとした験担ぎみたいなもんだな。


 「………また外れた。このクリアファイルはもういっぱい持ってるんだよなぁ。まあ、好きだから良いけど」


 俺ってくじ運悪いのかねぇ。もう結構な回数引いてるんだけど。なんならA賞は持ってるんだ。推しキャラのB賞だけが、中々当たらない。


 これが物欲センサーってやつかな。


 「拳聖君はそのアニメが好きなのかい?」


 「ええ。ドロドロのヘドロみたいな不倫模様を描いた中々攻めたアニメですよ」

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