第163話 終了


 「……………」


 「ボンがここまでくたばってるのを見るのは初めてやな」


 「ラスト一日の総決算って事で、かなり追い込みましたからね。俺が現役時代でも、ここまでやれた自信はありませんよ」


 「やり切った途端に倒れ込みよったで。生きとるか?」


 「本当にギリギリまでやりました。平地に戻ったら数日は完全休養ですね」


 何も考えられん。体が動かん。マジ卍。


 最初はやってんやんよの売り言葉に買い言葉の精神で、意地でやってたんだけどね。もう五日目ぐらいで、その意地もなくなった。


 最後の方なんて、半ば本能だけでやってたような気がする。


 「絶対途中でリタイアする思てたんやけどな。こんな練習メニュー、俺がボンやったら、キレ散らかしとるで」


 「俺もです」


 「…………」


 じゃあそんなメニュー組むなよ! 俺をなんだと思ってるんだ! 神様から特別なボディをもらったとはいえ、俺は人間だぞ! しんどいもんはしんどいんだよ!


 声を出すのも億劫だから、心の中で叫んでおく。今は本当に何もしたくない。2.3時間はこうしたまま、何も考えずに寝そべっておきたい。


 「拳士。今日はお前がボンの面倒見たれや。このままやったら、こいつここで寝よるで」


 「分かりました」


 「俺は黒木と赤城の様子を見てくるわ。ボンより先にダウンして休んどるからな」


 「あの二人も頑張りましたよね。拳聖に感化されて、途中までは拳聖のメニューに付いていってたんですから」


 「せやなぁ。この合宿で一皮剥けた感じはあるわな。これならOPBF挑戦も現実味を帯びてきよるで」


 大の字で寝転がってる俺を、父さんは器用に抱き抱えて運んでいく。現役を引退したとはいえ、父さんの力はまだまだ衰えてないようだ。約170cmの父さんが190cmオーバーの俺を抱えるのって、普通に凄いからね。


 それにしても、黒木さんと赤城さんは途中でくたばってたのか。周りを気にしてる余裕なんてなかったから、いつの間にか居なくなってる事に気が付かなかったよ。


 「よっしゃ。三人とも頑張った事やし、体力が回復したら、ええとこの飯でも食わせたるか」


 「良いですね。減量前の最後の贅沢です。みんな喜ぶでしょう」


 飯。飯かぁ。10日前までは、食べたいもんがいっぱいあったはずなのにな。今は何もいらないや。強いていうなら、かけうどんが食べたい。


 今はとにかくスパッと眠りたい。寝て回復する疲労量じゃないけど、寝れば少しはマシになるだろう。


 俺はその後、半ば無意識で父さんに世話をされながら、クールダウンして、飯を食べて、お風呂に入って、眠りについた。



 「メガシャキ!!」


 「元気すぎるやろ…」


 翌日。朝の5時前に目が覚めた。目覚めは良好。少し体の気怠さは残ってるものの、昨日の寝る前と比べたら、絶好調と言ってもいい。


 既に起きてた会長が俺のあまりの元気具合にちょっと引いている。


 「お腹空いた! 焼き肉食べたい!」


 「ば、バケモンかいな…」


 流石チートボディ。やっぱり『超回復』は、筋肉系の事だけじゃなくて、普通に体力回復なんかにも作用されてるな。前々から思ってたけど、今回の事ではっきりした。


 ほんといい特典をもらったよ。


 そんなこんなで約一ヶ月に渡る高地トレーニングが終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る