第162話 ハード
「し、死ぬ。マジで死ぬ…」
「大丈夫や。まだ行ける。ほれ、インターバル終わるぞ」
「ふぎぎぎぎっ」
高地トレーニング合宿最後の十日間が始まった。会長は予告通り、これまでとは比にならないぐらいスパルタで追い込んでくる。
黒木さんと赤城さんはとっくに屍になってる。俺は意地でも練習をやり遂げる所存。けど、後これが九日も続くのを想像して憂鬱になったり。
「あーきっつ」
休憩中もこまめに身体チェックがある。酸素飽和度と体重はしっかりチェックして、体に異常がないか、入念に検査。高地トレーニングは、マジで見誤ると死者が出る事もあるみたいだからね。
「飯を八分目ぐらいまで食べれるようになったのは良いんですけど、脂っこいものが食べたいっすよね」
「俺、今そんなもん食ったら吐くぞ」
「なんでお前はあれだけ動いて元気なんだよ」
脂っこいものは、消化に悪いって事でこの合宿中はなるべく控えるようにしている。食事量は六分目ぐらいから、八分目ぐらいまで増やしたけどね。でも、食べれないってなると、食べたくなるのが人間ってもので。
二郎系のラーメンをドカ食いしたいし、サックサクのトンカツが食べたいし、脂の固まりみたいなホルモンを食べたいし、俺の大好物である唐揚げをしこたま食べたい。
高地トレーニングは擬似減量してる気持ちになってくるな。
「途中から段々慣れてきました。ようやく体が高地仕様になってきたんでしょうね」
「そんなすぐ適応出来るもんなのかよ」
「俺は明日もぶっ倒れる自信があるぞ」
そりゃ、これだけ入念に慣らして、トレーニングしてたらね。チートなボディを持ってる俺としては、慣れなきゃおかしいってもんよ。
むしろ時間がかかりすぎたかなって。正直、しんどいのは最初だけで、慣れたら余裕っしょとか思ってたんだけどね。高地という存在を甘く見過ぎてたぜ。
「ほーう。ええ事聞いたな、拳士。ボンは明日から更に強度を上げても良さそうや」
「ですね。余裕があるのは良い事ですが、今回の合宿に関しては、余裕や後の事なんて一切考えられないぐらい追い込む予定だったんです。これはやり甲斐がありますよ」
「げっ…」
みんなで食堂でご飯を食べてたら、会長と父さんがやって来た。どうやらさっきまでの会話を聞かれていたらしい。
二人ともその黒い笑顔はやめませんか? なんか明日からが怖くて仕方ありませんよ?
「メニューも改善しましょうか。ここの本数を増やして…インターバルも短く…」
「シャドーのセット数も増やそか。ボンを本気の限界まで追い込んだらどうなるか、気になるわ」
「良いですね。それもメニューに組み込みましょう」
喋ってる内容が恐ろしすぎるんだが。俺はなんか二人を怒らせるような事をしたかな? 全く心当たりがないですよ?
「お、おい、大丈夫か、拳聖。あの二人が言ってるメニュー内容、平地で追い込む時のメニューと大差ないぞ?」
「むしろ、ランメニューが増えてるから、余計地きついかもしれん」
黒木さんと赤城さんの二人が流石にやばそうって事で心配してくれる。
「ふ、ふふっ。よ、余裕っすよ! 余裕! なんたって俺は3階級制覇した世界チャンピオンですよ? このままヘビー級までのし上がろうとしてる人間が、これしきの事で弱音を吐いてはいられません! 俺はこの合宿で更なるレベルアップをしてみせます!」
もうこうなりゃ、ヤケだ。
やってやる。とことんやってやるよ。
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