第159話 合宿開始


 「ふぅ。疲れた」


 「お疲れー」


 孤南君親子は一度持ち帰って考えてみますって事で、今日はお開きになった。プレゼンをしてた父さんは、少々お疲れの様子。


 仕方ない。拳聖特製ブレンドのコーヒーを淹れてやろう。


 「孤南君はどこを選ぶかなぁ」


 「実質二択だったと思うけど」


 最初に紹介された高校は、ないと思う。孤南君が生粋のドMだったら話は別だけど。


 上下関係とかは確かに大事だと思うよ。でも、それを笠に着て、大して実力もないのに威張り散らかしてるやつは無理だ。


 俺なら間違いなくパンチしちゃうね。


 「孤南君の事はともかく。自分の事は大丈夫なのか?」


 「試合相手の研究はばっちり進めてるよ」


 天下ジムにはデータを解析する専門の人間がいる。その人と練習前と練習終わりに、しっかりと情報をインプットしております。


 まあ、見れば見るほど負ける気がしない相手なんだよなぁ。油断したらダメって分かってるけど、どうしてもちょっと気が抜けちゃう。


 「気を付けろよ。絶対的王者が負ける時ってのは、思いもよらない相手に足元を掬われる事が多いんだ」


 「そうだね」


 人間だもの。絶対どこかに気が抜ける場面がある。どれだけ自分で気を付けてても、無意識に相手を舐めてやられるんだ。


 今度の高地トレーニングで、そういう甘えを削ぎ落とそう。心底やりたくない合宿だけど、良い機会にだったかもしれないな。





 「とうちゃーく!」


 そしてやって来ました、長野県。

 標高1700mを超えた場所にあるトレーニング施設である。


 なんだかんだ前日になったら、修学旅行みたいでテンションが上がっちゃった俺。滅茶苦茶テンションが高いです。


 「特に息苦しいとかは感じないですね」


 「言われてみればちょっと? って感じ」


 「拳聖が地獄なんて言うから、どんなもんだと身構えてたけど、これならなんとかなりそうだな」


 一緒に合宿する赤城さんと黒木さんも、どこかワクワクしてる雰囲気。なんか楽しくなってきちゃったね。


 「昔のお前と同じ事言うとるな」


 「地獄を見るのはこれからですよ」


 後ろで父さんと会長が何かを言ってたが、聞こえなかった。



 今回の高地トレーニングは、アクシデントがなければ結構長い期間行われる予定になっている。


 まずは最初の三日間は、体調管理をしっかりしつつ、この場所に慣れる為の時間。これが終わると一旦平地に戻る。


 高地トレーニングは気を付けないと、一気に体調を崩して、練習どころじゃなくなるみたいだから。慎重にやる予定だ。


 「とりあえず散歩でも行きますか」


 「だな。暇だし」


 そんなこんなで三人で施設の確認がてらの散歩。ちらほら他にも利用者がいるらしく、挨拶しながら歩く事15〜30分。


 「なんか苦しいな」


 「あ、黒木さんもですか?」


 「息切れしそうっす」


 それなりに早いペースで歩いてたけど、なんかやたらと息が切れる。いつもはもっと早いペースでランニングもしてるし、バテるには早すぎる。


 「なるほどなるほど。歩くだけでこうなるんですね」


 「いきなり走ったりしてたら、とんでもない事になってたかもな」


 「これは確かに慣れる期間が必要だ」


 うーむ。ちょっと予想外だな。早速こんなに牙を剥いてくるとは。これ、ちょっと慣れたくらいで、練習とか出来るのかね?


 ただただ辛いだけの練習はお断りですよ?

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