第160話 一旦平地へ


 「どうやった?」


 「息苦しさは感じますね。この状態で練習したらキツそうです」


 黒木さんと赤城さんと散歩から帰ってくると、会長と父さん、それに他のスタッフ達がロビーで雑談しながら待っててくれていた。


 「まあ、まずはこの三日間はとにかく環境に慣れる事や。練習なんてほとんどせぇへんで。ウォーキングとランニングぐらいやな」


 「分かりました」


 という事で、本当に三日間は慣れる為の期間だった。でもこれは大事なんだなって思い知らされた。


 まず、寝付きが悪い。いつもは布団に入ったら遅くても15分ぐらいで夢の世界に旅立てるんだけど、滅茶苦茶時間がかかる。


 それに寝れてもどこか寝苦しい。酸素って大事。俺はこの世の真理を学んでしまったかもしれん。


 それに食事面でも気を付ける事がある。高地では消化スピードが遅くなるらしく、いつも通り食べてると下痢になったりするらしい。


 だから大体腹6分目ぐらいに抑えておくのが基本。さらに、小便の回数が多くなる。だから、こまめに水分を取って、脱水症状にならないように注意する事も必要。


 まあ、この状態でトレーニングすると、身体だけじゃなくて、内臓にも負荷が掛かりますよってこった。


 『超回復』さん出番ですよ。なんか良い感じに適応して下さい。このままじゃ、正直練習もままなりません。


 勿論体調管理もしっかりしている。

 毎朝体温を測ったり、就寝後、起床前の酸素飽和度もチェックしてる。その辺は俺達が寝てる間にスタッフさんが測ってくれている。


 そうした事をして三日間。

 俺達は一旦平地に戻ってきた。


 「なんか身体が軽く感じる」


 「なんでお前はそんな元気なんだよ」


 長野のとあるホテルに数日滞在して、また高地トレーニングに戻る予定。


 平地に戻ってきた黒木さんと赤城さんは、若干体調の変化にやられてるらしい。


 俺は最終日辺りでなんとか慣れてきた。それでもいつも通りの練習って訳にはいかないけど。


 「ふむ。特に身体に何か変化がある訳じゃないか」


 「三日間、軽く歩いたり、走ったりしてるだけだったしな」


 こう劇的に身体のキレが良くなりました! とかではないらしい。ちょっと残念。



 「次は一週間やるで。練習の強度も徐々に上げていくつもりや。覚悟しとけよ」


 ホテルでゴロゴロしてた俺達に会長が次回の予定を説明する。ここで数日休んで次は一週間。


 ちょっと強度を上げた練習をする。で、また平地に降りてきて数日休む。


 で、最後の10日間で追い込むって感じらしい。


 「合宿が終わった後の自分がどうなってるか楽しみだなぁ」


 「なんでお前はそんなポジティブなんだよ」


 「いや、どうせ地獄みたいなトレーニングするなら、そう思ってないとやってられないでしょ。これで見返り無しとか、ブチギレ案件ですよ」


 「まあ、確かにそうか」


 モチベーションは大事。成長した自分を想像して頑張るしかない。まだ本気で苦しい高地トレーニングはやってない訳だし。


 果たしてどれほどのもんなのか。モチベーションを維持し続けられるかに掛かってるな。


 

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