第157話 相談


 「父さん、会長が合宿するってさ」


 「高地トレーニングだろ? 聞いてるさ」


 「あ、そうなの?」


 練習が終わって、家に帰って父さんに報告すると、既に知っていた。それなら先に言ってくれても良かったのに。


 「そりゃ、一応お前のトレーナーだからな。予定は会長としっかり共有してるさ。俺から言わなかったのは、お前が文句を言う事が目に見えてて面倒だったからだ。会長に面倒事を押し付けただけだよ」


 「父さんから高地トレーニングの地獄っぷりは聞いてるからなぁ。マジで嫌なんだけど」


 「お前がそこまで嫌がるのも珍しいな」


 「父さんのせいでしょ」


 話を聞いた時の父さんの顔が忘れられない。本当にキツかったんだなってのが分かるもん。普通の練習のキツさとはまた違うキツさらしいし。


 「ふっふっふっ。お前もあの地獄を味わうが良いさ」


 「そういう指導者は良くないと思いまーす」


 「だから、俺から提案した事はなかっただろう? でも会長が提案した事なら仕方ない。うん、仕方ない」


 偶に古いタイプの指導者にいるよね。昔は俺達はこんなに苦労したんだから、お前達が楽するのは許さないーって言って、馬鹿みたいに昭和な指導法を未だに押し付ける人。


 まあ、今回はちゃんと効果もあるっぽいから、またそれとは違うんだろうけど。


 そんなこんなで父さんと喋ってるとインターホンが鳴った。今日は我が家にお客さんが来るのだ。


 「お邪魔します!」


 「お忙しいところ、お時間頂きありがとうございます」


 やって来たのは孤南君とそのお父さん。父さんが今日、ジムに来なかったのは、今日のお話の準備の為である。


 世間話もそこそこに本題へ。


 「色々調べてみましたが、候補は三つですね」


 孤南君のご両親から、孤南君の進路についての相談があったのだ。


 来年高校生になる孤南君。幸い理解がある両親のお陰でボクシングを続ける事、プロを目指す事に異存はないらしい。


 プロのボクサーってほんとに上澄みじゃないと食っていけないからなぁ。日本チャンピオンでも、スポンサー次第ではバイトしないと生活が苦しいなんて話もよくあることだ。


 まあ、孤南君はアマチュア経由だから、まだその話は大丈夫だけど、やっぱりご両親からすると、やるなら成功して欲しい。


 それならしっかりとした進路を選んで、少しでも将来にプラスになるようにと考えるのは自然な事だろう。


 しかし孤南君のご両親は、あんまりボクシングについて詳しくない。孤南君が始めて少しは理解して来たみたいだけど、強豪校がどこかとか、そういうのはさっぱりみたいだ。


 それで俺達に相談したいって事だな。


 まあ、俺と父さんもアマチュアは経由していない。流石に素人よりは詳しいけど、しっかり説明する為に、今日は父さんは家でひたすら調べ物をしたり、知り合いに声を掛けて話を聞いたそうだ。


 「ボクシング部がある高校がまず少ないですからね。その中でも強豪校となると、都内では更に限られます」


 「はい」


 「その中でも三つの候補の高校がこちらになります」


 父さんはそう言って、さっきプリントしてた紙を孤南君パパに渡す。なんか父さんがインテリの仕事が出来る人に見えてきたな。


 俺は孤南君パパが手土産にと持って来た、並ばないと買えないと噂のシュークリームをもしゃもしゃしながら、そんな事を思った。


 うみゃい。

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