第149話 新生


 「服部孤南! お前を新たなスパーリング三銃士に任命する!」


 「はいっ! 頑張ります!」


 「何やってんだ」


 桃山さんの引退試合が終わってから少しして。今日も今日とて練習だとジムに来たら、桃山さんがリングの上で孤南君になんかやってた。


 赤城さんと黒木さんも、リングの上で手を組んで後方腕組みおじさん状態。良い大人がマジで何やってんだ。


 「スパーリング三銃士の道は辛く険しい」


 「それでもお前はついて来れるか?」


 「精一杯やり切る所存です!」


 「うむ。良く言った。それでこそ、俺の後継者として相応しい」


 なんか孤南君もノリノリである。そんなのに付き合わなくても良いんだよ?


 俺は馬鹿やってるみんなを横目に練習の準備をする。他の練習生達に悪影響にならないかしらと心配である。日本チャンピオンや、世界チャンピオンが所属する天下ジムは、その名声も相まって、結構な人数が所属してるのである。


 俺がジムに来た時より、スタッフなんかも増えてるし、今は周りの土地も買って増築しようかと相談してるくらいには。


 桃山さんは孤南君に三銃士任命の儀だけして帰って行った。あの人、マジで何しに来たんだよ。


 因みに桃山さんは引退後に、俺達天下ジム生の行きつけである『拳』っていう居酒屋で、大将になる為の修行が始まる事になってるが、副業として偶に練習を見てくれる事になっている。


 あんなんでも元は日本チャンピオンだし。それに引退後に全く体を動かさなくなって、デブになりたくないらしいから。ちょくちょく顔を出してくれる事になっている。


 それはさておき。


 俺はいつも通り柔軟からスタート。特典で『柔軟な体』をもらった俺だけど、幼少期からずっとこれだけは欠かさずにやってるのも相まって、マジでぐにゃぐにゃである。


 そりゃフリッカージャブも鞭みたいにしなるってもんよ。これで筋肉もゴリゴリついていくんだから、対戦相手はたまったもんじゃないだろうね。


 柔軟が終わるとランニング。ランニングマシンを使ったりする事もあるけど、俺は外を走る方が多い。


 「拳聖君頑張ってー!」


 「はいよー」


 こんな風に地元の住民さんとコミュニケーションが取れるからね。俺はこの時間が割と好きなのである。子供から声援をもらった時なんてやる気が漲る漲る。


 ……決してロリとかそういうのじゃないよ? 純粋な応援ってそれだけで嬉しいんだ。


 で、ランニングから帰って来た後は、その日によって練習メニューは違う。


 「待っていたぞ!」


 「我ら新生スパーリング三銃士!」


 「う、生まれ変わった三銃士の力を見せてやる!」


 って事で、今日はひたすらスパーリングデーである。孤南君、恥ずかしいなら無理に付き合わなくても良いんだよ? そんな顔を真っ赤にしてやる事じゃないんだ。


 俺が適当に付けたスパーリング三銃士もいつの間にか当たり前のように使われる名称になってるしさ。


 「さーて。じゃあやりますか」


 孤南君もここで揉まれて随分ボクサーらしくなってきた事だし。まだ中学三年生には酷かもしれないが、世界チャンピオンの実力ってのを見せつけてやろう。


 リングに上がったら容赦しないぜ。

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