第144話 テレビ


 「はい。という事で今日は昨日3階級制覇をした皇拳聖選手に来て頂いています」


 「よろしくお願いします」


 皇拳聖テレビデビューいぇーい。


 試合の次の日、俺は朝のニュース番組にお呼ばれされていた。結局龍騎姉から連絡は未だに来てない。ずっと悶々してる拳聖君であります。会話デッキの構築から、思考が飛躍してデートプランまで考えていたのに。


 これが大人女性の恋愛術という事か。早くも勉強になりました。だが、やられっぱなしで黙ってる俺ではない。こちとら世界チャンピオンだぞ? 3階級制覇ぞ? 女性の一人や二人、逆に手のひらでコロコロしてやるってんだ。


 で、龍騎姉の事はひとまず置いといて。今までは高校生だった事もあって、試合後にこういうのは無かったんだけど。次の日学校って事もあったから。


 でも高校も卒業してボクシング一本に絞ったからね。所属してるおじさんの事務所にも、出てみる? って聞かれたし、デビューしてみようかなと。


 まあ、今まで試合はテレビ中継されてたし、俺のインタビューとかも普通にお茶の間に流れてたけども。こういう感じで出るのは初めてである。


 「まずは改めて昨日の試合の勝利、おめでとうございます」


 「ありがとうございます」


 「圧巻のKO勝利でしたね。まさか1Rで試合が決まるとは思ってませんでした」


 「あははは。正直自分でもあそこまで早く終わるとは思ってませんでしたね」


 ほんとにね。フルで尺を取ってたテレビ局の人は、急遽俺の過去の試合の映像をダイジェストで流して対応したみたいだけど、てんやわんやの大騒ぎだったらしい。


 ごめんね。


 「ズバリ聞きますが勝因は?」


 「うーん…。階級を上げて身体のキレが良かったってのもありますけど…」


 「皇選手は身長が高いですからね。減量も毎回苦労していると聞きます。それが階級を上げて少し楽になったと?」


 「それもあります。でも今回は相手の調整ミスも大きいんじゃないかと。前日計量でも少しオーバーしてましたし、当日もリカバリーが上手くいってるように見えませんでした。本来の力を十全に発揮出来てなかったんでしょう。それに自分の身体のキレの良さが噛み合った。そう考えています。日本開催の試合のお陰です。相手のホームでやってたら今回の様な結果にならないでしょう」


 敬語って疲れるな。母さんにこういう時の対応を教えてもらっておいて良かった。面白くないかもしれないけど、無難な対応が一番なのである。


 有名になってくると、意味の分からん言葉の揚げ足取りから大炎上なんて良くある事なんだ。


 別に試合相手にビッグマウス叩いてトラッシュトークをして、生意気とか言われるのは構わないけど、試合が終わった後は相手に敬意を見せないとね。


 その後も良くあるスポーツインタビューみたいな会話を続けて、最後は次戦について。


 「次の試合はもう決まってるんですか?」


 「いえ。まだです。ですが、ウェルター級にはどうしても戦いたい相手がいまして。向こうが試合を受けてくれるまでこの階級に居座ってやるつもりですよ。向こうが階級を上げたら俺も上げて。落としたらこちらも落とす。絶対戦います」


 「ほ、ほう。その対戦相手には並々ならぬ思いがあるようですね」


 俺がギラついた視線向けるもんだから、ニュースキャスターさんがちょっと引き気味だ。ちょっぴり反省。せっかく好青年アピールしてたのに。


 まだまだ感情の制御が未熟である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る