第145話 熱望してる選手
「やっぱりですか…」
「うん。なんか拳の怪我だってさ。本当かどうか分からないけど」
テレビ出演が終わってから一週間。この前の試合の疲労なんてほぼ皆無だけど、試合が終わってから1.2週間は休暇をぶち込んでるからね。
普通はそれ相応にダメージがあって、そのダメージを抜くのに時間が掛かったりするからさ。で、俺はその間家でゴロゴロしたり、動画鑑賞したり、ランニングして軽く体を動かしたり。
………ちょっぴり期待してコンビニのスイーツコーナーを覗いてみたり。因みに龍騎姉から未だに連絡はありません。もうなんか、こっちから龍騎に姉の連絡先を聞いた方がいい気がしてきたんだが。
でも、ここで俺からアクションを起こすと何か負けた気がするから。どっちが先に痺れを切らすかのチキンレースだぜ。……こんな意味不明な理由を付けて、連絡にひよったりしてるのが俺に彼女が出来ない要因の一つだろうな。
だって、なんて連絡したら良いか分からないし…。一応ネットで勉強して会話デッキの構築は着々と進めてるんだけどね。なんか無駄な努力をしてる気がしてならない。ネットの情報を鵜呑みにしてる感じがいかにもって思っちゃうよね。
それはさておき。
白鳥さんには早速次の試合相手にオファーを出してもらった。俺がウェルター級で対戦を熱望してる選手で、階級を上げた時に最初にオファーして断られ、今回もオファーしたけど、やっぱり断られたみたいだ。
「これはもうあれですね。残りの2団体も制覇して、4団体制覇を大々的に煽って無理矢理引き摺り出すしかないですかね」
「そうだね。マスコミも使って存分に煽るしかないだろう。まあ、彼のキャラ的にはそれも楽しみそうではあるんだけど」
「否定出来ないですね…」
俺が対戦を熱望してる選手。
それは韓国からかなり久々に誕生したIBFウェルター級世界チャンピオン、チョ・ガンホ選手。この選手は簡単に言うとヒールキャラである。
かつては日本以上に世界チャンピオンを抱えて、アジア一のボクシング強国なんて言われてた時代もあったらしい。
しかし、替え玉事件や野球とサッカーの台頭。KBC(韓国ボクシング委員会)の内紛とかがあって、一気にボクシング人気が衰退。世界チャンピオンが15年以上も出ない事態になった訳だ。
まあ、らしいっちゃらしいし、自業自得なんだが、そんな低迷した韓国ボクシング業界に超新星が現れた。それがチョ・ガンホ選手である。
彼は勝つ為ならなんでもする選手だ。試合前の妨害は当たり前。試合中の反則スレスレな行動、相手を馬鹿にしまくる痛烈なトラッシュトーク、普段の行動。その全てが外道という言葉が良く似合う人物なのだ。
だが、いつの時代でもそういうヒールキャラは一定数から支持を得るもので、韓国から久々に誕生した世界チャンピオンって事もあって、国内ではそこそこ人気らしい。勿論他国では嫌われまくってるが。
まあ、俺はあそこまでクズっぷりを見せられると、逆に演技してるんじゃないかとも思ってはいるんだけど。
それはさておき、俺が戦いたいのには理由がある。それは俺がライト級、スーパーライト級で戦ってる時だった。
チョ・ガンホ選手は、それはもう痛烈に煽ってきた訳ですよ。日本と韓国は仲が悪いしね。突然出てきたルーキーをとりあえず馬鹿にしておこうとでも思ったんじゃなかろうか。
やれ、親の七光りだの、ウェルター級まで上がってきたらボコボコにしてやるだの、本物のボクシングを教えてやるだの。他にも色々言われたが、それはもう罵詈雑言のオンパレード。良くそこまで罵倒のボギャブラリーがあるもんだと感心したくらいだ。
そこまで言われて黙ってる俺じゃない。いざウェルター級に上がっていの一番にオファーしたのに、対戦から逃げてやがる。
そろそろ俺も逃げるなチキンとでも煽り返しても許されるのではなかろうか。でもなぁ。相手と同じ土俵で勝負して勝てる気がしない。
俺はそこまで口が達者な訳じゃないし、何より相手と同類と思われたくない。でもやられっぱなしは性に合わない。
中々難しいもんである。
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