第142話 圧勝


 『カ、カウンター一閃! ガルバチョフのパンチを冷静に躱して、皇の右フックが炸裂したーっ! 序盤から一方的な展開が続いたがここでダウン! ちょっと危ない倒れ方をしたが大丈夫かー!?』


 「ワーン! ツー! スリー!」


 滅茶苦茶綺麗にカウンターがテンプルに入った。手応えもばっちし。俺は確信して右手を上げてガッツポーズをする。


 レフリーがのカウントを聞きながらニュートラルコーナーに向かい、コーナーに持たれかかる。


 そしてレフリーが4のところでカウントを止めて両手を大きく振った。


 『止めました! 試合終了ー!! 皇拳聖! 1RKO勝利で鮮烈なウェルター級デビューを飾りました! 強い! 強すぎるぞ! これで父と同じく3階級制覇を成し遂げました!』


 「拳聖!」


 「うぇーい!」


 試合が終わって父さんがリングに入ってくる。いつもの様にグータッチを交わして喜びを分かち合う。前回の試合では疲れすぎてこれが出来なかったからね。


 「ほぼジャブだけで完封したな」


 「試合前から思ってたけど、本当に今日はキレが良すぎた。リーチ差って偉大なんだなって改めて思ったよ」


 本当に。マジで相手に何もさせなかった。言い方は悪いけど、今までで一番楽な試合だったと思う。


 日本チャンピオンに挑戦した時も、1RKOをしたし、その時より相手は勿論強いんだけど、今日は何もかもが噛み合ったって感じ。


 ライト級は減量もきつかったけど、ウェルター級は余裕があったし、自分の身体スペックを上手く使えたなって印象だ。今まではちょっと無茶な減量で、完璧に自分の身体を使いこなせてなかった。


 ウェルター級でこれだ。俺の適正階級はまだまだ上だと思ってるし、これで更に筋肉を付けたらどうなるのか。今から楽しみで仕方ないね。


 まあ、筋肉をつけすぎてスピードを失ったしないように注意しないといけないけど。バランス良く鍛えないとね。


 「あ、ガルバチョフ選手起きた」


 「倒れ方がちょっと怪しかったけど、心配なさそうだな」


 動画とかでも見た事はあるけど、人ってあんな風に膝から綺麗に崩れ落ちるんだなって思ったもん。グニャって下半身から抜けていくみたいな。


 実際目の前で見ると思ったよりも怖い。とりあえず意識が戻って一安心である。


 「じゃあちょっと向こう陣営にありがとうございますって言ってくる」


 「ああ。俺も行こう」


 なんか今回の試合、勝ったのは勿論嬉しいんだけど、いつもみたいな高揚感がないな。一方的に勝てたからだろうか?


 一応ウェルター級でもチャンピオンになって、これで3階級制覇。父さんにも並んだし、もっとテンションが上がるかなと思ってたんだけど。


 思ったよりも冷静というか、なんというか。こう、体の底から湧き上がってくるものがない。


 嬉しいのは嬉しいけど、なんだかなって。まあ、いっか。そういう事もあるだろ。


 俺のウェルター級での本命はガルバチョフ選手じゃないし。その時までは派手な喜びは溜め込んでおくとしようか。


 

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