第141話 VSウェルター級ガルバチョフ2


 リング中央を陣取りフリッカーをぶんぶん振り回す。これだけリーチに差があると、ズルしてる気分になるな。


 身長は20cmぐらい差があるし、リーチ差はもっとある。俺だけマジで鞭を持って試合に挑んでるみたいだ。


 今までもこれぐらいの身長差やリーチ差で試合をした事はあるけど、今日はとにかくジャブのキレが良すぎる。3kgの差ってこんなに大きいんだなぁ。


 『ガ、ガルバチョフが近付けない! 皇がジャブで突進を抑えている!! なんだこれは!? かなり一方的な展開だぞ!?』


 さっきからガルバチョフ選手は踏み込んでこようとしてる。でも俺は踏み込む瞬間を狙って、パンチの威力を強めて出足を挫く。


 試合が始まって1分少々。まだ左手しか使ってない。でも流石にひたすらジャブの打ちっぱなしは疲れてきた。


 って事で。


 『皇がスイッチしたっ! サウスポースタイルで左のジャブから右のジャブにチェンジだ! あくまでも遠い距離でガルバチョフを封殺する魂胆か!』


 左手が疲れたのでスイッチ。俺は『コーディネーション』のお陰で無駄に器用だからね。左でも右でも同じ事が出来るのです。


 でも前世では右利きで、多分今世でも右利きだから、右の方が若干使いやすくはある。


 今世は両方の手で箸を使って食べれるし、文字だって綺麗に書ける。両利きなんだぜと密かな自慢なんだけど、主に使ってるのは右だ。前世からの意識的なサムシングもあると思われ。



 右のジャブに切り替えてから、ガルバチョフ選手はジリジリと後退していく。俺はガルバチョフ選手のパンチが届かない安全距離で、ひたすらフリッカーを振り回すだけだ。


 だけど、ジリジリ下がっていくもんだから、いつの間にかガルバチョフ選手はコーナーを背負っていた。


 逃げる所が無くなったガルバチョフ選手は打たれ続けるだけ。せっかくコーナーまで追い詰めたし、俺も逃がす気はない。


 でも突っ込まない。ひたすらこの距離でジャブを打ち続ける。この調子でもそのうち倒せそうだし、ガルバチョフ選手は現状を打開しようと、絶対どこかで無理矢理にでも勝負を仕掛けてくるはず。突っ込んできたところをカウンターで迎え撃てばいい。


 油断しないようにガルバチョフ選手の動きを注視しながら、ひたすらジャブを打ち続ける。


 そろそろ右も疲れてきたし、もう一回スイッチしようかなと考えてる時だった。俺が構えを変える一瞬の隙をついて、ガルバチョフ選手が凄い勢いで突っ込んできた。


 まあ、狙う隙はここしかないよね。俺も勿論準備してましたよ。


 俺はガルバチョフ選手が突っ込んで来たのに合わせて一歩下がる。身長差があるんだ。当然俺の一歩は相手よりも大きい。


 これだけでガルバチョフ選手の意を決した突進パンチは届かなくなる。パンチが空振ったのに合わせて、相手のパンチが戻る前に俺のカウンター一閃。


 右フックが正確にテンプルを捉えて、ガルバチョフ選手の膝がぐにゃりと折れてダウンした。

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