第140話 VSウェルター級ガルバチョフ1


 『皇選手の入場です!!!』


 会場が真っ暗になり、入場曲であるルトゥールの『災害』が流れる。ゴロゴロピカピカドッカンビュービューブオンブオンと、災害っぽい効果音が会場中に鳴り響いて、観客のボルテージは最高潮に。やっぱりこの歌は最高だよね。


 リングインして四方にお辞儀をして、先に入場していたガルバチョフ選手を見る。昨日に比べると、体付きがもやしって事はないが、体調が万全とも言い難い感じに見える。


 その点俺の体は完璧である。ダビデ像もびっくりするであろう肉体美だ。『超回復』に感謝感謝である。


 『『歩く災害』皇拳聖のウェルター級への挑戦。過去に日本人選手でウェルター級世界チャンピオンになった選手はいません。今宵新たにボクシング界に歴史を作れるか!』


 『対するチャンピオンガルバチョフは、これまで三度の防衛成功。今日が四度目の防衛戦になります。前日計量で100gオーバーするという事があったものの、時間を置いた計量ではしっかりと落としてきました。KO率80%超えのパワーファイターが皇拳聖の前に立ちはだかります』


 レフリーにお呼ばれして、リング中央でいつもの注意事項の説明を受ける。俺はいつも通りニコニコと。ガルバチョフ選手は何故か顔が引き攣ってる。


 ってか、汗が凄いな。まだ試合は始まってないのに、滅茶苦茶汗をかいてる。ワセリンが滲みまくって、顔がテカテカですよ。



 「今日のお前はジャブだ。ジャブでガンガン押していけ」


 「いえっさー」


 セコンドに戻ってマウスピースを装着。父さんから最終アドバイスをもらう。俺もジャブでガンガン行こうと思ってました。試合前の最後の調整でかなり感触が良かったしね。


 流石親子。

 以心伝心バッチリである。


 そしてゴングが鳴る。俺はいつも通り腕をダラリと下げての、ほぼノーガードスタイル。ガルバチョフ選手は、ガードをしっかり上げてゆっくりと近付いてくる。


 まずは俺がどういった感じでくるかの様子見って事かな。でも残念。そこは既に射程圏内である。


 「シッ!!」


 鞭のように腕を撓らせて、フリッカージャブを発射。カードの上からのパンチだけど知ったこっちゃない。ひたすらジャブで釘付けにしてやるぜ。


 『仕掛けたのは皇だー! 開始早々ジャブの嵐! ガルバチョフは近付けないか!? ガードはしているが、徐々に後退していく! 皇がリング中央を陣取り、試合をコントロールしていくー!!』


 ふむん。これまでの対戦相手は、フリッカーを避けて、掻い潜って俺に反撃しようとしてくる選手ばっかりだったけど、ガルバチョフ選手は違うな。


 ガードをがっつり固めて、ある程度の被弾は仕方ないと割り切ってるように見える。どこかのタイミングで突っ込もうとしてると見た。


 まあ、それを俺が許すかどうかは別問題だが。今日の俺のフリッカーのキレは一味違うぜ。まだまだギアを上げれるぞ。


 俺は牽制程度だったジャブから、更にスピードと威力を上げる。相変わらず亀のようにガードを固めてるけど、俺のジャブはガード越しでも効くんだぜ。


 それは今までの対戦相手が証明してくれている。いくらパワーファイターでも、パンチを当てれる距離に近付けなければどうとでもなる。


 それに近付いて来たら、俺の必殺カウンターを浴びせる準備も出来てるのだ。皇拳聖に死角なし。


 このままだと何もせずに負けちゃいますよ?

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