第139話 試合直前


 翌日。

 いつものように母さんのべりうまうどんで完璧にリカバリーして万全な状態で試合当日を迎えれた。


 スーパーライト級の時より体のキレが良い。まあ、そりゃそうだよね。身長190cmを超えてる男が筋肉をそれなりにつけて、60kg台で戦ってるのがおかしいんだ。


 ウェルター級も60kg台だけど、スーパーライト級より3kgぐらい重い。これは俺が思ってた以上に大きいみたいだ。気持ち良いぐらいに体が動く。


 控え室で父さんのミットを目掛けて、軽く体を動かしながらパンチを打ってると、それを如実に実感出来る。


 「ジャブのキレが段違いだな。俺の体ってこんなに動くんだ」


 「腕の動きが気持ち悪いな。このミットに来るって分かってても、ちょっと身構えるぞ」


 「息子に気持ち悪いなんて言っちゃいけないと思います」


 まあ、自分でもフリッカージャブの動きがちょっと気持ち悪いなとは思うけどさ。もう本当に鞭みたいに撓って動くんだよ。うにょんうにょんしとる。


 「おっ、勝った」


 「危なげない勝利だな」


 今日は三銃士の一人、赤城さんが日本タイトル防衛戦をセミファイナルでやっている。6回TKO勝ちで、会場は大盛り上がりだ。これはOPBF挑戦に向けて、いい勝ち方が出来たんじゃないかな。


 「思ったよりもリラックスしてるんですね」


 「まあ、今更焦っても仕方ないですし。練習でやって来た事を出すだけですよ」


 今日は控え室にTVカメラの生中継が入っている。高校生時代は遠慮してもらってたんだよね。


 「もっと張り詰めた雰囲気だと思ってました。そういう人もいらっしゃるので」


 「能天気なクソガキだとでも思っておいて下さい」


 カメラの人とインタビューする人の二人がいるんだけど、少し拍子抜けしてるっぽい。さっきまでは邪魔しないように、俺の体を動かしてる光景を撮ってただけだけど、ウォーミングアップが終わり、俺がスマホを弄り始めると、チャンスだと思ったのか、話しかけてきた。


 まあ、俺はあんまり緊張しない方だと思う。緊張よりも楽しみが勝ってる。試合前独特のこの雰囲気は大好きだ。


 緊張とはまた別のなんとも言えない高揚感というか。控え室にある畳に寝転がって、スマホを弄ってる姿は生意気に見えるかもしれないな。


 これが俺のリラックス方法なんだと、良い感じに放送して下さい。ルトゥールのPVを見てテンションを上げるのです。


 「皇選手、入場準備お願いします」


 「よっしゃ、行くか」


 ゴロゴロしてしばらくすると、係りの人が呼びに来た。いよいよウェルター級初戦である。派手なKO勝ちを見せて、PFPランキング入りを目指したいところ。


 「頑張ってください」


 「ありがとうございます。ベストを尽くしてきますよ」


 TVの人にも激励のお言葉をもらって、やる気は充分。これが美人さんなら尚良かったが、カメラの人もアナウンサーの人も男である。


 まあ、俺がそうお願いしたんだけど。美人に見られたら、試合関係なく緊張しちゃうし。………こういうところが俺に彼女が出来ない理由なんだろうな。ぴえん。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 書いてて思ったんですけど、試合前にスマホいじってて良いんですかね? 軽くググってみたんですけど、それっぽい事を書いてるのが見当たらなくて。


 知ってる方がいたら教えてくだせぇ。


 

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