第135話 PFP


 「ぬぅ」


 手に持ってたスマホをソファに投げる。ぽよんと跳ねて、手元に戻ってくる。もう一度投げる。またぽよんと跳ねて手元に戻ってくる。さっきからそれの繰り返し。


 拳聖君はちょっぴりブルーですよ。


 「またランキングに入ってない…」


 皆さん、PFPというのをご存知だろうか。

 パウンド・フォー・パウンド。

 全階級で体重差のハンデがない場合を想定して、誰が最強かを指す称号だ。


 現在では多くのメディアが、独自のパウンド・フォー・パウンドランキングを発表している。


 かつては日本人選手が1位になった事もあって、ボクシング選手からするとこのランキングに入るのが一つの栄誉みたいなところもある。


 色々なメディアがランキングを発表しているが、俺が気にしてるのは一つ。本家の『ザ・リング』のランキングだ。


 ランキングが更新されたが、俺はまたもやランク外だった。


 「なんでや! 試合数が足りひんのか! それともこの前の試合で最終ラウンドまでもつれ込んだからあかんのか! うがー!」


 スマホを投げてはぽよん、投げてはぽよんの高速ループを繰り返す。思わずエセ関西弁が出てしまうぐらいには荒ぶってますよ。


 そりゃ、俺はまだプロ7戦しかしてないペーペーですけどね。2階級制覇してますし? 全試合KOで勝ってるんですよ? 1位とは言わなくても、そろそろランキングに顔を出しても良いと思うんです。


 父さんだって、最高4位にまでランクインした事があるんだぜ。俺だってランクインしたい。


 「ランクインしたーい! したいしたいしたーい!」


 「お兄ちゃんうるさいよ」


 「ごめんなさい」


 妹の聖歌に怒られた。リビングで勉強をしてらっしゃるんですよ。邪魔をしてしまったみたいで。自分の部屋でやれば良いのではと思うけど、一人の空間じゃ集中出来ないらしい。


 なんか、ふと片付けがしたくなったり、ちょっとだけと携帯をいじると、びっくりするぐらい時間が経ってたり。あるあるだよね。


 俺が自分の部屋で叫べば良いか。


 「またこの人が1位だ。結構長い間この人なんだよね。マジつぇぇ」


 スマホをぽちぽち操作しながら、自分の部屋に戻る。


 『ザ・リング』の現1位。

 ウクライナ人のイヴァン・コザク選手。

 ここ1年ぐらいずっと1位なんじゃないかな。


 ライトヘビー級、クルーザー級、ヘビー級の3階級を制覇して、ヘビー級に関しては4団体制覇している。


 ヘビー級の4団体制覇は史上二人目の快挙だ。


 32戦32勝30KO。

 正真正銘の化け物ですよね、ええ。

 この人が1位なのも納得ですわ。

 誰からの挑戦でも受けてその度にねじ伏せてきた本物の強者。年齢は現在31歳。


 まだまだ現役バリバリで、負けるか、致命的な怪我をするまでは現役を続けると宣言している。


 最後は勝って終わりたいんじゃなくて、負けて終わりたいんだと。そこは俺とは相容れない考え方だな。


 負けて終わりたいからと言って、勝負に手を抜く事はない。常に全力で叩きのめしてくる。グリズリーみたいな人だ。


 多分俺は、この人のボクシングの動画を一番見てると思う。体は熊で、技術も超一級品。非の打ち所がない素晴らしい選手。


 出来ればこの人がチャンピオンのうちに、ヘビー級に挑戦したい。父さん以外で憧れたボクシング選手はこの人のみだ。


 てか、この人が現役でバリバリやってるうちにヘビー級まで獲らないと、後から難癖付けられそう。


 イヴァン・コザクが居なかったから、お前はヘビー級のチャンピオンになれたんだーとかね。


 「はぁ。次の試合でKOしたらランキングに入るかな」


 まあ、コザク選手の事は置いておいてPFPですよ。次こそランクインしたい。


 その為には次の試合も、これからの試合も全部勝たないとな。


 


 

 

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