第132話 暇


 ウェルター級の体重の上限は66.68kg。

 スーパーライト級から3kgぐらい増える。


 これでかなり楽が出来る。それでも身長が190cmを超える俺からすると、常に節制が必要な体重ではあるんだけどね。


 ウェルターの階級にしては、これでもかなり大柄だ。ジェイソン選手みたいな極端にリーチの長い選手以外は、まだまだリーチで有利が取れる。


 これがヘビー級までいくと、190cmは平均よりちょっと高いぐらいになるんだけどね。2m超えとか平気でいるし。


 身長の伸びももうほぼ止まったし、恐らく2mは超えない。骨端線も閉じて、本格的にフィジカル増強していきたいところなんだけど、それをやると結局減量で苦労する。


 今でもギリギリ調整してやってるぐらいだしね。


 「鍛えれば鍛えるだけ、筋肉密度が上がって体重が増えるのも考えものだなぁ。筋トレは懸垂ぐらいしかしてないんだけど」


 ジムにある懸垂用の棒にぶら下がりながら独り言を呟く。高校を卒業してから、ほぼ毎日ジムに通ってる。休みの日でもとりあえず来てる。


 暇なのだ。勉強から解放されて、ボクシング一本に集中出来るぜわっしょいと思ってたけど、思った以上に時間を持て余す。


 ボクシング一本に集中すると言っても、身体を休める必要もあるわけで。そういう時にやる事がないのだ。


 友達も大学の準備とかで今は忙しくしてるし、俺は知り合いはかなり多いけど、気軽に遊びに誘える友達は少ないんです。


 「やはりこういう時に彼女と遊ぶという選択肢がないのが問題なんじゃなかろうか」


 「何をぶつぶつ言っとるんや。今のお前の格好はまぁまぁダサいで」


 「あ、会長」


 懸垂用の棒にだらーんとぶら下がりながら、俺の寂しい現状を嘆いてると、会長が馬鹿を見る目をしながらやって来た。


 因みに今日はオフの日だ。だから、練習とかはしない。それでも暇だからジムに来て、とりあえず棒にぶら下がってる。マジで暇人じゃんね。


 18歳、今年19歳のまだまだ遊びたい盛りの男が、特にやる事もなく棒にぶら下がる。しかもその男は2階級制覇を成し遂げたボクシングのチャンピオンときた。


 中々に滑稽である。


 「かいちょー。彼女が欲しいですー」


 「そんなん俺に言うなや。俺を何歳や思てんねん」


 棒の隣にある長椅子に腰掛けた会長は、心底呆れたように言う。確かにそうなんだけどね。


 ぶら下がりながら考えたんです。俺って、これから出会いなくね? って。


 高校の時みたいに、学校に行けば女性がいて毎日のように出会いがある訳ではない。いや、俺はそれでも運命の人に出会えなかったが。


 高校で出会えなかったのに、俺はこれからどうしろと。これで大学に行ったり、社会に出ればまた話は違ったんだろうけど、俺の基本的な生活は、ジムと家の往復である。


 どこに出会いがあると? 龍騎に合コンをセッティングしてもらうしかないじゃないか。高学歴な大学女性には、野蛮なボクシングはウケなさそうだなぁ。


 「あれ? そう考えると、俺ってやばいな?」


 「そないに焦る事でもないと思うけどなぁ。拳士が嫁に出会うたのも、高校出てからやで」


 ふむ? そういえばそうだな。ってか、思えば母さんと父さんの馴れ初めを詳しく聞いた事がなかったかも?


 ちょっと帰って詳しく聞いてみようかな。もしかしたら参考になるかもしれん。

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