第129話 最終ラウンドの猛攻


 「シッ!」


 ゴングが鳴って一気に距離を詰める。ジャブを牽制にして、インファイトへ。右目だけには注意しつつ、猛攻を仕掛ける。


 やっぱり最終ラウンドだからか、パンチやフットワークのキレがない。鍛えまくってたつもりだけど、まだまだ足りないみたいだ。


 ペース配分もちょっとおかしかったかな。途中で倒せると思ってしまったのがいけなかった。そのせいでほぼガス欠だ。


 まあ、最終ラウンドまで戦えたのは良い経験だと思っておこう。今後の試合で絶対活かせるはずだ。


 まだ試合も終わってないのに余裕だなと思われるかもしれないが、実際なんか余裕なのだ。


 ジェイソン選手がほぼ動かないサンドバッグ状態なのである。俺が踏ん張ってボコボコにしてるのに、ガードを固めるだけ。全然手を出してこないし、虚な目をしてる。これは最初からだったかもしれないが。


 一応カウンターにはいつでも対応出来るようにしてるが、本当に何もしてこないのだ。


 『最終ラウンドで皇拳聖が仕掛けたー!! 止まる事ないパンチの嵐!! ジェイソンは防戦一方だ!! これはレフリーが止めに入るのは時間の問題か!? 会場から今日一番の拳聖コール! この歓声に応えてKO決着なるかー!?』


 怒号のような歓声をバックにパンチを打ちまくる。これで最後なんだ。全部出し切ってやる。


 倒したい気持ちは滅茶苦茶あるが、大振りにだけはならないように。ジェイソン選手がパンチを打ってきたら、カウンターを被せられるように。


 細心の注意を払って、今日一番の集中力で、ジェイソン選手を攻め立てる。


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 が、やはりガス欠。最終ラウンドで長い事ラッシュを続ける息が持たない。もう平気なフリもせず、かなり疲れてますと表情に出す。


 これにジェイソン選手が反応してパンチでも打ってきてくれないかなと、カウンターの準備はしてたんだけど。やっぱり動かない。


 俺は審判の方をチラッと見る。これ、流石に止めないとやばいんじゃないのと。俺がラッシュを中断して一歩距離を取る。


 ジェイソン選手は動かない。そこで俺はようやくジェイソン選手側のセコンドがタオルを振り回してるのに気付いた。


 そして審判が慌てて止めに入る。


 『劇的な幕切れ!! 最終ラウンドで皇拳聖のTKO勝利だー!! ジェイソンはリング中央で微動だにしていません! これは大丈夫なのでしょうか!?』


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 とりあえず勝ったらしい。ちょっとあんまり実感が湧かないな。KO勝利はそうだけど、倒し切れてないし。


 ってか、大丈夫なの? マジで。立ったまま気を失って…あ、倒れた。マジでやばくない? 本当に大丈夫?


 「拳聖!」


 「はぁ、はぁ、ちょっと俺は良いから、はぁ、はぁ、あっちの様子見て来て」


 いつもなら父さんとうぇーいするところなんだけど、それよりもジェイソン選手が心配だ。


 それに最後のラッシュで調子に乗りすぎて、まだ息が整わない。酸素、酸素が足りてませんよ。


 倒れ込んでもジェイソン選手はガードを固めてるんだけど。いや、マジでやばくない? さっきから頭が回らなくてやばいしか言ってないけど、本当にやばいって。


 とりあえず素直に喜んでる場合じゃないってのは分かる。俺も様子を見に行きたいけど、息が整うまで待って下さい。


 ん? あ、起きた? 大丈夫そう? いや、でもすぐに検査した方が? 勝ったは嬉しいけど、どうしたら良いか分かりませんよ。



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 以前近況ノートで言ってた非公開にした過去作を再アップしました。


 『鏖殺』のジャスミン


 良かったら見て下さい。

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