第128話 VSスーパーライト級ジェイソン5


 『早いラウンドで決着すると思われた試合は気付けばまもなく最終ラウンド! 皇拳聖にアクシデントがあっとはいえ、ジェイソン選手のタフさには驚かされます! 泣いても笑っても最後の三分間。KO決着か、それとも判定にまでもつれ込むのか!』


 「これが最終ラウンドまで戦うって事か。滅茶苦茶キツいな」


 「その割りには余裕そうに見えるぞ」


 「余裕そうに見せてんの。許されるならこのまま寝転がりたいくらいだ」


 11Rが終わって一つ息を吐いてから椅子に座る。まさかここまで時間が掛かるとは思ってなかった。


 6Rでカットしてから7.8Rはジェイソン選手のペースで試合が進んで、体の芯にくるようなボディも数回もらった。毎日のように三銃士にボディを叩いてもらっていても、痛いものは痛い。どれだけ外側を鍛えても内臓は鍛えられないってのがよく分かるね。


 だけど、視界の不自由さに慣れた俺は、9R目から攻勢に出た。今思えば倒せなくてちょっと焦ってたのかもしれん。


 今までここまで長引いた事は無かったし、俺のパンチをこれだけしこたま食らって起き上がってくる相手もいなかった。


 9Rに一回、11Rで一回ダウンを奪ったのに立ってくる。こいつはマジでゾンビなんじゃなかろうか。


 肉眼で見ても分かるぐらいボディは内出血してるし、顔も腫れてきてる。それなのに、毎度毎度カウント8で立ち上がってくるんだ。


 もう合計五回のダウンを奪ってる。判定になったら俺が勝つだろう。


 「俺のパンチ力がないのかって錯覚しちゃうね」


 「いや、相手の目を見てみろ。あれ、もう気力でなんとか立ってるだけだぞ」


 「開始直後からあんな目だったような気がするけど」


 ジェイソン選手はずっと瞳に輝きを宿していない無って感じだった。なんかトランス状態なんじゃないの? 催眠術でカウント8になったら、起き上がるように仕込んでるんだ。


 なんか疲れすぎて思考が馬鹿になってますね、ええ。なんだ、催眠術って。


 でもそんな風に思わないとやってられない。感覚的には11Rで奪ったダウンは会心の一撃だったんだよ。


 ジェイソン選手の左ジャブに被せるように打った右ストレートのクロスカウンター。手応えバッチリで、ガッツポーズをしたくらいだ。


 それなのにカウント8で立ち上がって、当たり前の様にファイティングポーズをとる。俺がゾンビと思っても、催眠術とかを疑っても仕方ないと思います。


 「ラスト3分だ。気を抜くなよ。KOで勝負を決めたい気持ちも分かるが、焦って突っ込むな。判定だろうが、KOだろうが勝ちは勝ちだ」


 「分かってるんだけどね」


 頭では分かってるんだ。最後のラウンドを適当に捌くだけでもポイント的には勝ってる。無理する必要なんてどこにもない。


 安全圏からジャブペチをしてるだけで2団体制覇おめでとううぇーいってのは。


 でも本能的なサムシングが倒せ倒せと言ってくる様な気がして。これはボクサーがボクサーである以上仕方ないと思うんだ。


 誰だって倒して勝ちたい。しかも今にも押せば倒れるような相手。これで自制するってのは中々難しいもんがある。


 「まあ、お前の気持ちも分かる。倒しに行くなとは言わんさ。だか、それを意識し過ぎるなって事だ。右眼の傷だけは気を付けろ。もうほとんど止まってるが、衝撃を受ければまた出るぞ」


 「あいあいさー」


 さあ、最終ラウンドだ。


 

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