第130話 容態
俺は起き上がったジェイソン選手にそーっと近寄る。どうしたら良いか分からないけど、とりあえずありがとうございましたは言わないといけない。
既にリングにはタンカも運び込まれていて、いつでも連れ出せるようにはなってる。今はドクターに簡単な症状の確認をしてもらってるみたいだ。
「ケンセー」
「ひゃい!」
ジェイソン選手は俺に気付いたらしく、声を掛けて来た。まさか、向こうからアクションをしてくると思ってなかった俺は変な声を出してしまう。
「その…大丈夫ですか?」
「ああ。恐らくな」
勝った側がこんな事を言うのは、多分煽ってる扱いになると思う。心底心配してても、勝った相手に大丈夫ですかはまずいよね。
父さんが通訳してくれたけど、ちょっと顰めっ面してたし。でもね、なんて言ったら良いか分からなかったんですよ。
「11Rの途中から記憶がなくてな。12Rまで戦ったと言われてびっくりしてるところだ」
「それは…」
凄いって褒めるところなのか? マジで何を言ったら良いか分からん。
やっぱり11Rのダウンは完璧だったんだよ。本来ならそこで試合は終わってるはずだったんだ。
でもジェイソン選手はそこから無意識に立って戦ってたと。セコンドも気付かなかったのか? ラウンド終了時点で止めてくれよ。
今はわりと平気そうだけど、危うく人殺しになるところだったじゃないか。これはセコンドと審判の怠慢と言わざるを得ないですよ。
無意識でしっかりガードは固めてたとはいえ、意識が飛んでる状態でボクサーのパンチをもらって、平気でいられる訳がない。
あそこでガードを固めてなかったら、どうなってたことやら。ほんと勘弁してほしい。トラウマになるところだったぞ。
「皇選手」
俺が心の中でちょっとむっくりしてると、審判に呼ばれて、チャンピオンベルトを渡される。
スーパーライト級のベルトが二つ目だ。嬉しいのは嬉しいけど、なんだか後味が悪い。すぐに返上もするしね。
とりあえず歓声に応える為に腕を上げて、四方にお礼をする。
試合前は1RKO出来るかなわくわくみたいなテンションだったのに、蓋を開けてみれば12Rまで引っ張られて。ほんと、ボクシングって自分の思い通りに進まないね。
スーパーライト級に上がる前に対戦相手を映像で見て、誰も彼も余裕そうだなって思ったのにこれだ。実際は二試合ともそれなりに苦戦している。
これだけチート能力を持ってても、苦戦するのは練習量が足りてないんだろうか? でも練習すればするほど減量がキツくなるんだよなぁ。
今更ながら、俺はやるスポーツを間違ったんだろうね。三つの特典があれば、大抵のスポーツでそれなりに成功したんじゃなかろうか。
父さんがサッカーをやってたら、俺もサッカーをやってただろうし、バスケならバスケ、野球なら野球。
ボクシングだからボクシング。
小さい頃に見た父さんの背中が忘れられなくて。俺もあの舞台に立ってみたいと思って。
そう思ってボクシングを始めた事に後悔はない。まだまだ道半ばだけど、少しずつあの頃の父さんに近付けてるだろう。
高校生活最後の試合も終わって、これからは本格的にボクシング一本に集中出来る。
今回の苦戦を教訓にどんどん駆け上がって行こう。
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