第124話 VSスーパーライト級ジェイソン1


 「シッ!」


 ゴングが鳴って早々に俺から仕掛けた。ジェイソン選手のこれまでの映像を見るに、序盤はゆっくりと相手の癖や呼吸の再確認をして、中盤から後半にかけて勝負を掛けてくるような感じだ。


 そこでKOで仕留める事もあるが、大抵は判定までもつれ込む。一発は少ない選手だが、堅実な試合運びはしてくる。


 って事で、相手のリズムに持ち込ませないように、先手先手を取り続ける事が重要だ。


 いつもの俺のスタイル。腕をダラリと下げて、ほぼノーガードの状態からフリッカーを高速回転させていく。


 『オープニングパンチは皇拳聖から! 最早代名詞とも言えるフリッカージャブを鞭の様にしならせてジェイソンを牽制していく! ジェイソンはかなりの距離を取って回避に専念だ!』


 拳聖が牽制。

 なんか不意に浮かんだ韻を頭の中で踏みつつ、フリッカーを打っていくが、かなり大袈裟に避けて距離を取られる。


 でもそれは困惑して避けたって感じじゃなくて、しっかりパンチの軌道を見ながらって感じ。多分対策はしてきたけど、実際に見て更に微調整はしていっているって感じだろう。


 このまま見せ続けたらあっさりと対応されそうだなと思いつつ、それでもジャブを打ちながら、移動を誘導して逃げ場を塞いでいく。


 移動を誘導。ふふっ。

 ………失礼しました。

 今日は何故かこういうのが頭に浮かぶな。


 馬鹿な事はさておき、コーナーには誘導出来なかったものの、ロープ際には詰める事が出来た。


 流石に後ろに下がれなければ、流石に距離を取って避ける事は出来ない。なんとか逃げようとするジェイソン選手を釘付けにしつつ、ジリジリと距離を詰める。


 試合重ねるにつれて、こういう駆け引きが上手くなってきたなぁと自画自賛しながら、内心では首を傾げる。


 ジェイソン選手がほとんど手を出してこない。ガードを固めて防御に専念している。なんかここまで一方的な展開だと、逆に何かあるんじゃないかって勘繰ってしまう。


 俺がチャンスと思って大振りになって仕掛けてくるのを待ってカウンターでも狙ってるんだろうか? ガードの隙間から見える目はパンチの軌道をしっかり追ってるように見えるし、打つ手がないって感じじゃない。


 ここは焦らずにじっくりいくのが正解か。1RKOを目指して調子に乗ると痛い目を見そうだ。


 『第1Rから皇拳聖のパンチの嵐が吹き荒れる!! ジェイソンは防戦一方だ! 早くも観客席からは拳聖コールが鳴り響いています! まさか1Rで決めるのかー!?』


 観客が煽ってくるけど無視。正直ここに釘付けにしてるだけでも、充分なダメージは与えられる。俺のフリッカーはガード越しではふらつくようなダメージはないけど、顔面を腫れさせる事が出来るのは、これまでの試合で実戦済みだ。


 どう転んでも俺が有利。この状況を維持する事に努める。ジェイソン選手が何をして来ても対応できる様に準備しておいて、試合を俺のペースで進めていく。


 フットワークとジャブの牽制で、ロープ際から脱出させないようにする事15秒ほど。たまに出してくるパンチの距離を測りつつ、リーチに慣れていく。


 その時、ジェイソン選手の肩が動いた。パンチの起こりを見るなら、腕じゃなくて肩を見るのが有効だと、俺個人的には思ってる。


 これは色んな人がいるみたいだけどね。父さんは目線と腕で確認してるって言ってたし。


 で、肩が動いたのを見て、さっきまでの逃げる為のパンチじゃない事に直感的に気付く。


 俺のジャブの打ち終わりの瞬間に死角から、フック気味のショートアッパーが飛んで来たのを感覚で避ける。ちゃんと見えなかったし。


 後ろに下がりながら避け、下がりながら俺もフックをカウンターで返す。それが綺麗にテンプルを捉えて、ジェイソン選手はダウンした。


 「ダウーン!!」


 審判が慌てて割り込んで来て、俺は首を傾げながらニュートラルコーナーへ向かう。


 正直下がりながらのパンチであんまり腰も入ってなかったし、手応えも微妙だったんだけど。当たりどころが良かったんだろうか?


 タフな選手だと思ってたから少し拍子抜けだぜ。

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