第123話 厨二心


 『18歳の若き神童。『歩く災害』『ウォーキングディザスター』と呼ばれる皇拳聖選手の入場です』


 リカバリーも万全に出来て体調テンション共に完璧で試合当日を迎えた。横浜アリーナは相変わらずの超満員。登場曲であるルトゥールの『災害』が流れて、会場は既に最高潮の盛り上がりを見せている。


 「そう言えば、最近お前の事を『歩く災害』とか『ウォーキングディザスター』って言われてるのを知ってるか?」


 「知ってる。英語の方はやめてほしいんだよね。ちょっと恥ずかしい。厨二心が沸々と湧き上がってきちゃう」


 「そうか? 俺はカッコいいと思うが」


 両手を上げながら入場。後ろでは会長が俺のチャンピオンベルトを掲げてくれている。俺は父さんとどうでも良い話をしながら歓声に応える。


 ボクシングだけじゃないけど、スポーツで有名になると、異名みたいなのが付けられる事が多々ある。俺は巷では『歩く災害』『ウォーキングディザスター』って言われてるみたいだ。


 父さんは厨二心を大事にしてるらしい。現役時代は『超人』とか『スーパーマン』って言われてた人は違うね。俺はまだそこまで割り切れないよ。


 『スーパーライト級の2団体制覇を目指す皇拳聖選手。インタビューでは今回の試合に勝てば、更に階級を上げると公言しています。10代での3階級制覇へ弾みを付けられるか。ここまで6戦して全てKO勝利。今日も派手なKO勝利に期待しましょう』


 リングに上がると既にジェイソン選手が待機していた。俺が後から入場するのってなんか新鮮だな。大体挑戦者の立場だったから、先に俺がリングインしてたし。


 今回は両方がチャンピオンだから、入場順は話し合いで決まった。特に揉める事もなくすんなり決まったと聞いている。


 恐らく日本開催だからこちらに気を遣ってくれたんだろう。知らんけど。俺はその話し合いに参加してないし、正直入場順なんて気にしてない。


 リングに上がって四方にぺこりんちょしつつ、口を湿らす程度に水を含む。


 毎回この試合前の緊張感はたまらないな。どれだけ自信を持って試合に挑んでもドキドキするし、ゾクゾクする。


 試合も勿論楽しいけど、この試合前の高揚感も大好きだ。これぞ試合って感じがたまらなく好き。


 「両者中央へ!!」


 レフリーに声を掛けられて中央へ。

 俺はいつものニコニコスマイル。ジェイソン選手の表情は無だ。かなり冷静そうに見える。


 やっぱり父さんが言ってたタイプ的なのは分からない。過去の試合を見ても確かにタフだなとは思ったけどね。


 レフリーの注意事項を聞き流しながらそんな事を考える。正直何を言ってるか、あんまり分からないし。外国の審判だから英語で言ってるんだもん。


 馬鹿な俺が聞き取れる訳ないね。まあ、ローブローとかバッティングはだめだよ、厳しくいくからね、ラビットパンチもめんめだよとか言ってるんだろう。


 スポーツマンシップに則って正々堂々試合をしましょうねって事だ。言われるまでもない。正々堂々ぶっ飛ばしてやるぜ。


 「リーチにはさっさと慣れろ。後は拳聖がいけると思ったタイミングで仕掛けて良い。抜かるなよ」


 「いえっさー」


 セコンドに戻り、父さんから最終確認されつつマウスピースをはめる。


 カーン!!


 そして第1Rのゴングが鳴った。

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