第122話 ネガティブ
試合前日。
計量を無事に通過した。
パン一になって機械の上でマッスルポーズ。今回も恐らく筋肉を落とさずに、ちゃんと減量出来たはずだ。その証拠に俺の体は彫刻みたいに輝いている。モデルとかやったらこれだけで飯が食っていけそうだぜ。
母さん譲りの顔で、中々男前な顔してると自負してるからね。
「腕長いなぁ」
ジェイソン選手もしっかりと計量をパス。
生で見たのは今日が初めてだけど、俺より身長が低いのにリーチが同じぐらいだからか、余計に腕が長く見てる。
「あ、挨拶に行かないと」
この後に記者会見はあるけど、とりあえず挨拶。挨拶は大事って、この前の小園選手で分かったからね。
ムカつく奴とか、試合前からトラッシュトーク全開の奴なら俺だって、そんな事はしないけど、ジェイソン選手は至って普通だった。
白鳥さんがちょろっと煽ったとか言ってたから、心配してたんだけど向こうは大人な対応でしたね。内心はどう思ってるのか分からないけど。
「明日はよろしくお願いします」
俺はすすすっと記者会見場に向かう前にジェイソン選手に近寄って話しかける。向こうはちょっとびっくりしてたけど、普通に握手に応じてくれた。
「こちらこそ。お手柔らかに頼むよ」
通訳を介して笑顔でそう言うジェイソン選手。側から見ればにこやかな会話をしてそうに見えるけど、おかしいな? ジェイソン選手の目が笑ってませんよ。
やる気半分、死にそうな顔半分って感じ。もしかして減量がキツくてあんまり喋りたくないとかそんな感じかな? それならあんまり時間を取らせない方がいいか。
俺はもう一回よろしくお願いしますって言ってから、その場を離れた。
OS-1をゆっくり飲みながら、父さんと話をする。
「ジェイソン選手の練習ってずっと非公開だったから、どんな事をしてくるか読めないんだよねぇ」
「あんまりKOが多い選手ではないが、油断は禁物だぞ? 経験上ああいうタイプはかなりしつこい」
「ああいうタイプ?」
俺にはそういうのが分からないんだが。経験不足? 見ただけでタイプとか分かるのか。
「恐らくあれはかなりネガティブな思考をしている。自分に自信がない奴なんだろうな」
「世界チャンピオンなのに? 俺なんていつも自信満々よ?」
見ただけでそこまで分かるもんなのか。自分のファンだったケヴィン選手の事は分からなかったくせに。
それにしてもネガティブか。チャンピオンになってまで自己評価が低いとかそっち系なのかね? 俺にはちょっと理解出来ない感じだな。
「ああいう手合いはこれでもかってぐらい対抗策を練ってきてるし、タフな事が多い。下手したらゾンビみたいに立ち上がってくるぞ。仕留めるなら確実に意識を飛ばすぐらいはしないとな」
「なんじゃそりゃ」
一応毎試合そのつもりでパンチは打ってるけどね。意識を飛ばすのって普通に難しいんだよ。的確に顎かテンプルを捉えないといけないからね。
俺の自信のあるボディ打ちとかも耐えてく
るって事なんだろうか。ちょっと試したい気持ちはあるけど、舐めプして負けるなんてのはごめんだから、いつも以上に気を張ってチャンスを窺わないといけないかもな。
やっぱりどのチャンピオンも一筋縄ではいかないぜ。
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