第120話 ジェイソン
☆★☆★☆★
ポスンポスン。
「はぁ…」
ポスンポスン。
「はぁ…」
ポスンポスン。
「はぁ…」
ポスンポス…。
「おい、その辛気臭いため息をやめろ。後、やる気のないサンドバッグ打ちもだ」
オーストラリアのとあるジムにて。
WBCスーパーライト級のチャンピオンである、ジェイソンはやる気のなさそうに練習をしていた。それをトレーナーは注意するが、ジェイソンは辞める気はない。
「なんで対戦を受けちゃったんだろうな。映像を見れば見るほど勝ち目がないのが分かるよ」
「お前が売り言葉に買い言葉で了承するからだろうがっ!」
本来ジェイソンは今回の皇拳聖との試合を受けるつもりはなかった。まだまだ減量に苦労してそうだし、ケヴィンとの試合が終わってすぐに階級を上げるだろうと思ってたのだ。
しかし予想に反して、皇陣営が選んだのはスーパーライト級での試合。防衛戦でも別団体挑戦でも良いからと対戦相手を募集した。
「あんな事言われて黙ってる訳にはいかないでしょーが!!」
「じゃあ文句を言わずに練習をやりやがれってんだ!」
皇陣営が対戦相手を募集したものの、当然それは難航した。プロでのキャリアはまだ6戦だが、全ての試合でKO。ギリギリの勝利ではなく、どの試合も完勝なのである。
口さがない連中や、見る目がない奴らには分かってないようだが、あれはバケモノだとジェイソンは思っている。
18歳で2階級王者? 更にまだまだ成長期ときた。前の試合から更に強くなってるんだろう。ケヴィン相手にも勝てるか分からなかったジェイソンには、釣り合ってない相手と言えた。
『対戦相手の皆さんに逃げられて困ってます。世界チャンピオンっていうのは、子供相手に逃げ回る人達の事を言うのですね。勉強になりました』
代理人である白鳥がとあるメディアにて発言した言葉だ。あからさまな挑発だが、何故かジェイソンは『やってやんよ。俺、やってやんよ』と乗ってしまった。自業自得である。
そして今。
試合の日が近付くにつれて憂鬱になっていく。オーストラリアのメディアは、こっちの気持ちも考えずに大盛り上がりだ。
調子に乗った日本人をオーストラリアの英雄がぶちのめしてくれる。世間ではそういう事になってるが、試合をやる身からするとたまったもんじゃない。
それと挑発に乗ってしまった自分が悪いのだが。
「映像を見たけどさ。これでまだ未完成の選手なんでしょ。成長度数がおかしいよね。試合をするたびに別人になってるみたいだ。どこまで成長してるのか読めないのが痛い。今やってる対策も無駄になるかもね」
「一応考えうる最高を想定してるが」
「それは所詮俺達の予想でしかないでしょ。ケヴィンもリュカも他の選手も。しっかりと予想して対策して試合に挑んだはずだけど、悉くやられてるんだ。生半可な対策じゃ、皇には勝てないね」
「じゃあどうしろってんだ?」
「それが分からないから困ってるんじゃないのさ。はぁ…。何か致命的な弱点でも見つからないかな」
ジェイソンはそう言って、またポスポスとサンドバッグを叩き始めた。
その顔は諦めてるように見えて、どこか糸口を探してるようにも見えた。
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