第115話 三銃士のタイトル戦


 「いいですか、パイセン。絶対相手は後半ペースが落ちてきます。前半は耐えて下さい。出来ればポイント5分が理想ですが、多少取られても構いません。勝負は4R以降。絶対相手の足は止まります。そこを狙ってどーんです」


 「分かった」


 「決定打の使い所は間違わないで下さい。序盤はいつも通り。パイセンなら絶対大丈夫です。いつも俺がスパーリングしてるんですから。俺より恐ろしい相手じゃないはずです」


 やって来ました。スパーリング三銃士のトリプル日本タイトル戦。俺はセコンドに入る事はないけど、選手控え室には入れる。


 これまで映像を見て来た事をアドバイスしたり、喝を入れたりと大忙しである。


 三銃士で一番最年長の桃山さんは最後の試合。一試合目は最年少の黒木さんで、その次が赤城さんである。


 初戦の黒木さんはフライ級の日本ランキング3位。いつもスパーリングで一番良い動きをしてる人だ。


 「もし負けたら分かってますよね? この世の地獄とも思えるぐらいのスパーリングをプレゼントしてあげますよ」


 「ひえっ」


 正直黒木さんは心配してない。映像を見た感じ、相手のチャンピオンより技量は上だと思う。でも初のタイトル戦って事で、緊張やらなんやらで本来の力を発揮出来ないかもしれない。


 「パイセンがいつも通りの力を発揮出来たら間違いないです。世界チャンピオンからのお墨付きですよ」


 「そう言われるとなんだかやれる気がしてきたな」


 「普段毎日のように俺とやり合ってるんですから。日本タイトルぐらいバシッと獲って来てもらわないと困りますよ」


 俺達4人で天下ジムにチャンピオンベルトを並べてやりましょう。




 「ガード上げてー!!」


 ぬぅ。抜かったわ。対戦相手のチャンピオンが第1Rから猛攻を仕掛けてきた。こっちの後半勝負の作戦がバレてたか? 様子見をしようとしてた黒木さんが、面を食らって防戦一方である。


 俺はリングに近い観客席から声を出してるが、まあまあ目立つ。日本人にしては身長がデカい方だし、ボクシング界ではそこそこ有名を自負してるからね。なんたって世界チャンピオンですし。おすし。あ、なんかお寿司食べたくなってきた。


 じゃなくて、今は先輩の事だ。

 いきなりで面を食らってた黒木さんだけど、徐々に立て直してきてる。相手チャンピオンは序盤に全てを懸けてるのか、猛攻が止まる気配はないけど、黒木さんは冷静だ。


 「よしよし」


 まだ第1Rだってのに、チャンピオンの表情がよろしくない。自分のスタミナの無さを理解してるんだろう。黒木さんにはこのまま冷静に対処してもらいところ。


 「まあ、大丈夫か」


 セコンドには会長もいる。俺の試合の時はほとんど口出しをしてこないけど、父さんを育て上げた名伯楽である。勝負の仕掛けどころとかもしっかり分かってるはずだ。


 普段の練習でも、さらっとしたアドバイスは滅茶苦茶効果的だしな。関西弁がうるさい人ってだけじゃないんです。


 試合も安定してきたし、この試合はどしっと構えてても大丈夫かな。

 

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