第114話 ようやく


 「ありがとうございました」


 とりあえず予定してた5R分のスパーリングは終了。上から目線になるが、小園選手は以前戦ったより強くなっていた。


 基礎は申し分ないと思う。俺が言うのもなんだが、肉体スペックには恵まれてるし、パンチ力も素晴らしい。ディフェンスにやや粗い部分はあるかなと思ったけど、それは多分色々試行錯誤してたからだ。


 スパーリングをしてて、何か色々試してるなってのは分かった。パンチの振り方を変えてみたり、ステップに緩急をつけたり。


 試してるからちょっとディフェンスが疎かになったんだろう。


 ついでだから、俺が気になったところを言っておこう。小園選手も夜木屋選手も両方戦った選手で、どちらか片方を贔屓するのはどうかと思うけど、たった一回でもスパーリングして一緒に練習したら情が湧いちゃうよね。


 「アッパーを打つ時なんですけどね。もう少し腰の回転を--」


 「なるほど!! こうですね!」


 歳下の若造の意見を素直に聞いてくれる。

 ほんと良い人だ。試合の応援にも行こうかなぁ。





 『お待たせ。試合決まったよ』


 「え? 決まったんですか?」


 小園選手とのスパーリングから数日。

 そろそろ階級を上げる決意をするかと、白鳥さんに連絡しようと思ってたら、逆に電話がかかってきてびっくり。試合相手が決まって更にびっくりである。


 試合相手は別団体、WBCスーパーライト級チャンピオンの選手である。


 「なんかあんまり良い返事を貰えないって聞いてたんですけど」


 『ふふふ。そこは僕の交渉術を褒めてほしいね。まあ、軽く煽ったりはしたんだけど』


 何を言ったかは聞かない方が精神衛生上良さそうだ。なんにせよ、試合が決まったのは良かった。でも試合は2月。残念ながら年末までにもう一試合したいという願いは叶わなかったみたいである。


 「あ、次の試合勝ったら階級上げようと思ってます。相手も見つからないでしょうし」


 『分かった。そのつもりで相手の事も調べておくよ』


 今回で対戦相手が見つからないのがよく分かったので、もう階級を上げる事にした。未だに防衛戦未経験のチャンピオン…。


 そろそろやりたいんだけどなぁ。



 白鳥さんにお礼を言って、早速対戦相手の映像をチェックする。一応、ライト級から階級上げた時にチラッとは見てるんだけどね。


 「むむっ。俺と同じぐらいのリーチか?」


 オーストラリアのジェイソン選手。身長は俺の方がちょっと高いが、リーチは同じくらいに見える。


 俺は一応スーパーライト級では大きい方だけど、それよりもちょっと小さいってぐらいだから、ジェイソン選手も大きい部類に入るだろう。


 今まではいつもリーチ差で勝ってたし、身長も俺の方が頭一つ分ぐらいは大きかった。そこで圧倒出来てた部分もあるんだけも、次戦はそうはいかないみたいだな。


 まあ、見方を変えれば階級を上げる前の予行演習ともとれる。舐めてる訳じゃないけど、映像を見た感じ、ケヴィン選手より強そうには見えない。まだ軽くしか見てないし、実際に相対してみないと分からない事もあるだろうけど。


 リーチ差を上手く活かしたアウトボクサーって感じだけど、今回は俺にそれは通用しない。判定勝ちも多いみたいだし、パンチ力もそこまでって印象だ。


 油断はしない。リーチ差を活かせないのは俺も一緒だしね。大きい人をスパーリングパートナーで用意してくれないかな。

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