第113話 小園選手とスパーリング
☆★☆★☆★
「どうします? 一応夜木屋選手の模倣も出来ますけど。あ、でも完全には無理です。あのディフェンス能力は俺が見習いたいぐらいですからね」
「押忍! まずは皇さんそのものを体験させて下さい! あれから自分と皇さんとの間にどれだけ差がついたのか、肌で確認したいです!」
「分かりました」
ダメ元で頼んだスパーリング。
自分が所属してるジムの会長が、皇さんの次戦の相手が決まらずに暇してると聞いて、それならばと断られると思ってお願いしたんだけど、まさかのオッケー。
すぐに準備して天下ジムにやって来た。
天下ジムは自分が所属してるジムより、広さ設備も充実してるなと思った。それでも、人が多くて狭く見えてしまう。
皇さんが高校生で2階級制覇をして、入会する人が増えたんだろう。いつか自分のジムもこれぐらいの盛り上がりにしたい。
昔から体は大きいのに気が弱くて、どうしようもなかった自分を救ってくれた会長に恩返しがしたい。
舐められないようにハキハキと大きい声で喋ったり、強面な見た目も存分に活かして、皇選手に会うまではそれなりに充実したボクシング人生を歩んでたと思う。
「シッ!」
「うぐっ!」
少しずつ培ってきた自信は皇選手との試合で打ち砕かれた。自信があったパンチはほとんど当たらず、あっさりと負けてしまった。
そこから皇選手は一気に世界チャンピオンまで駆け上がり、自分はようやく日本タイトルに手を掛けたところ。
かなりの差がついてしまったし、今もスパーリングでほとんど手も足も出ない。
グローブは大きいものを使ってるし、ヘッドギアだってつけている。それなのに、体の芯に突き刺さるダメージがある。
これが世界チャンピオン。これが自分が負けた相手。
自分はかなり贅沢なんだろう。世界チャンピオンとのスパーリングなんて、お願いしてすぐに出来るものじゃない。
「フッ!」
「っ!」
このままやられっぱなしでは終われない。凄い凄いと憧れるだけなら、誰にだって出来るんだ。この時間を少しでも実のある成果に結びつけないと、自分はいつまで経っても成長出来ないんだ。
不細工な形でもいい。
皇さんになんとかクリーンヒットを当てたい。さっきのボディへのパンチは惜しかった。ギリギリガードを差し込まれてしまったが、後一歩だった。
まあ、その後一歩が遠いんだけど。
皇さんの修正力、試合での適応力は凄まじいものがある。
それは今までの試合を見ても明らかだ。前半で軽く様子を見て、徐々に試合を支配していく。序盤は押されてるように見えても、いつの間にか皇さんの試合になってるんだ。
自分は器用ではない。だから愚直に当たって、そこから突破口を見つける。次の試合相手の夜木屋選手は、ディフェンスが物凄く上手な選手だ。
何度もチャンスは作れないだろう。一度のチャンスをモノにする決定力が必要だ。
今回のスパーリングで、色々学んで夜木屋選手のディフェンスに対抗する手段を見つけたい。
皇さんは変則スタイルではあるが、ディフェンスもかなり上手な選手だ。皇さんに通用するなら、夜木屋選手にも通用するはず。
ここで何かしらの決定力を身に付けよう。
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