第116話 会長の涙


 「桃山さーん!! 立って立ってー!!」


 先輩達の日本タイトル戦はいよいよ大詰め。黒木さんは7回KO勝ち。赤城さんは判定勝ちで、無事に日本チャンピオンになっていた。


 そして最後の桃山さん。

 現在4Rだが、綺麗にカウンターを貰ってダウンしてしまった。


 「視点ははっきりしてるけど…」


 8カウントでなんとか立ち上がった桃山さんだけど、足元が怪しい。残り20秒をなんとか逃げ切ってほしい。


 「ガード上げてー!!」


 相手チャンピオンはここが勝負どころだと理解してるのか、猛ラッシュを仕掛けている。桃山さんは防戦一方だ。


 俺は観客席から声を張り上げながら応援している。果たして声が届いてるかどうかは分からないが。


 「ん? お、おぉ!?」


 防戦一方の桃山さんだったけど、何かを狙ってるような視線。俺がそれに気付いた瞬間、猛ラッシュを仕掛けて大振りになっていたチャンピオンのパンチに合わせてカウンターを炸裂させた。


 チャンピオンの膝がガクッと折れて、尻餅を付くようにダウン。


 「よしよーしよーし!!!」


 残り時間3秒でのダウン。

 カウント中にゴングは鳴ったけど、カウントは継続だ。


 立つな立つな立つなと何度も念を送る。しかし、チャンピオンの意識ははっきりしてるみたいで、既に起き上がる寸前だ。


 そこまでダメージがなかったかと残念に思いつつ、でもポイントは取り返したぞと色々頭の中で考えていると、チャンピオンが立ち上がった。と、思ったらもう一度尻餅を付いた。


 かなり呆然とした表情をしている。自分の意識とは裏腹に、結構ダメージがあったみたいだ。


 そして審判が両手を大きく振った。

 カンカンカンとゴングが鳴る。


 桃山さんもびっくりした表情をしてるけど、徐々に自分が勝った事を理解し始めたのか、リングの上で万歳しまくっている。


 「勝った! 勝った勝った勝った!」


 俺はすぐさまセカンド近くまで駆け寄る。ちょっぴり泣いてるかもしれん。


 「桃山さーん!!!』


 俺はブンブンと大きく手を振る。向こうも気付いたのか、こっちに向かってガッツポーズを返してくれた。


 正直俺が世界チャンピオンになった時と同じくらい嬉しい。まさか自分の試合以外でここまで熱くなれると思ってなかった。


 これで天下ジムにはチャンピオンベルトが4つですよ。こんなに嬉しい事はない。

 俺がジムに入ってからそれなりに長い時間が経った。


 今では愛着もあるし、もっともっと有名にしていきたいと思っている。いつかは世界最高のジムなんて言ってもらいたいね。


 「おお、あの会長が泣いてますぞ」


 俺が世界チャンピオンになった時ですら、笑っておめでとうって言ってただけだったからちょっと意外。


 俺とはまた違う思い入れとかがあるんだろうなぁ。ほんと、全員が勝てて良かった。一人だけ負けとか、気まずい思いをしなくて済んだね。


 「拳聖! お前も上がってこいよ!」


 俺が後方腕組みおじさん面してたら、桃山さんや、黒木さんや赤城さんもいつの間にか集合していて、わいわいとやっていた。


 お言葉に甘えて俺も輪の中に入れてもらいましょうかね。孤南君も今日来る予定だったのに、体調ヤンキーで来れなかったからなぁ。


 いっぱい写真撮ってを送ってやろう。

 みんな幸せそうな顔をしてますぜ。

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