第105話 VSスーパーライト級ケヴィン7


 ☆★☆★☆★



 やっちまった。

 その一言に尽きる。


 ケンセーのパンチはしっかりガードしてたはずだ。それなのに、気付けば左目の視界がほとんど塞がっていた。


 ガード越しの衝撃でダメージが蓄積されてたんだろう。ガードしてるから大丈夫だと楽観的に構え過ぎていた。ケンセーのパンチの威力は分かってたはずなのによ。


 それでこのままじゃまずいと焦ったのも良くなかった。早く勝負を決めなきゃいけねぇと、徐々に大振りになっていくパンチをケンセーに捉えられた。


 ダウンした時は一瞬意識が飛んだ。

 すぐに復帰する事は出来たが、どうしても自分が膝を突いてるのかが理解出来なかった。


 「ケヴィーン! なんとかこのラウンドは凌いで帰ってこい!!」


 これだ。このトレーナーの声が無かったら、俺はそのままテンカウントで終わってたかもしれない。


 普段は俺を揶揄ってくる奴だが、今までこいつの声にどれだけ助けられてきたか。


 俺はファイティングポーズを取って、ケンセーと再び対峙する。向こうも俺の目が腫れてる事に気付いたのか、執拗に死角を狙ってくる。


 卑怯なんて言えねぇ。俺も逆の立場なら、間違いなく狙う。俺もなんとか逃げようとしてるが、ケンセーのフットワークは巧みだ。


 ジャブが蛇のようにうねって伸びてくる。

 さっきまでなら捌けてたフリッカージャブも片目が塞がったせいで、距離感があやふやだ。


 「がはっ!」


 『ボディー! 皇選手のボディがチャンピンに突き刺さる! ここまでパンチ音が聞こえてくるような強烈なパンチだ! 流石のチャンピオンもこれには悶絶だー!!』


 死角ばっかり気にしてたからか、それをフェイントに、ボディにえげつないのをもらってしまった。


 なんとか耐える事は出来たが、息が出来ねぇ。


 『きたっ! きたっ! 皇選手のパンチの嵐だ! 『歩く災害』の面目躍如! パンチの暴風雨が止まらなーい!! チャンピオンは防戦一方だ!! これは万事休すか!?』



 こ、これはやべぇ。

 パンチが止まらねぇぞ。俺は亀のように固まりながら、必死に耐える。

 このままじゃまずい。レフリーに止められちまうかもしれねぇ。


 なんとかこっちもパンチを出して反撃したいんだが、とにかくパンチを出す隙がない。


 必死に耐えてると、若干攻勢が弱まってきた。ケンセーもひたすらパンチを打ちっぱなしの無呼吸運動は出来ねぇ。一瞬パンチの途切れる瞬間を狙って、逃げ出すしかねぇな。


 そう思って待ってると、一瞬の空白。

 無事な方の目でケンセーを見てみると、息を入れてるように見える。


 ここっきゃねぇと、俺は一歩踏み出してジャブストレートのワンツーを放つ。

 これを牽制にしてコーナーから逃げ出す。


 そう思ってたんだが。


 次の俺の意識はトレーナーが俺の前でひたすら呼び掛けてるところまで飛んでいた。

 一体何があった? 試合は?


 「ケヴィン! 分かるか!?」


 「ああ…。試合は…。いや、負けたか」


 トレーナーがリングの中の俺の目の前にいるんだ。という事はそういう事だろう。


 そうか。俺は負けたのか。

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