第105話 VSスーパーライト級ケヴィン7
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やっちまった。
その一言に尽きる。
ケンセーのパンチはしっかりガードしてたはずだ。それなのに、気付けば左目の視界がほとんど塞がっていた。
ガード越しの衝撃でダメージが蓄積されてたんだろう。ガードしてるから大丈夫だと楽観的に構え過ぎていた。ケンセーのパンチの威力は分かってたはずなのによ。
それでこのままじゃまずいと焦ったのも良くなかった。早く勝負を決めなきゃいけねぇと、徐々に大振りになっていくパンチをケンセーに捉えられた。
ダウンした時は一瞬意識が飛んだ。
すぐに復帰する事は出来たが、どうしても自分が膝を突いてるのかが理解出来なかった。
「ケヴィーン! なんとかこのラウンドは凌いで帰ってこい!!」
これだ。このトレーナーの声が無かったら、俺はそのままテンカウントで終わってたかもしれない。
普段は俺を揶揄ってくる奴だが、今までこいつの声にどれだけ助けられてきたか。
俺はファイティングポーズを取って、ケンセーと再び対峙する。向こうも俺の目が腫れてる事に気付いたのか、執拗に死角を狙ってくる。
卑怯なんて言えねぇ。俺も逆の立場なら、間違いなく狙う。俺もなんとか逃げようとしてるが、ケンセーのフットワークは巧みだ。
ジャブが蛇のようにうねって伸びてくる。
さっきまでなら捌けてたフリッカージャブも片目が塞がったせいで、距離感があやふやだ。
「がはっ!」
『ボディー! 皇選手のボディがチャンピンに突き刺さる! ここまでパンチ音が聞こえてくるような強烈なパンチだ! 流石のチャンピオンもこれには悶絶だー!!』
死角ばっかり気にしてたからか、それをフェイントに、ボディにえげつないのをもらってしまった。
なんとか耐える事は出来たが、息が出来ねぇ。
『きたっ! きたっ! 皇選手のパンチの嵐だ! 『歩く災害』の面目躍如! パンチの暴風雨が止まらなーい!! チャンピオンは防戦一方だ!! これは万事休すか!?』
こ、これはやべぇ。
パンチが止まらねぇぞ。俺は亀のように固まりながら、必死に耐える。
このままじゃまずい。レフリーに止められちまうかもしれねぇ。
なんとかこっちもパンチを出して反撃したいんだが、とにかくパンチを出す隙がない。
必死に耐えてると、若干攻勢が弱まってきた。ケンセーもひたすらパンチを打ちっぱなしの無呼吸運動は出来ねぇ。一瞬パンチの途切れる瞬間を狙って、逃げ出すしかねぇな。
そう思って待ってると、一瞬の空白。
無事な方の目でケンセーを見てみると、息を入れてるように見える。
ここっきゃねぇと、俺は一歩踏み出してジャブストレートのワンツーを放つ。
これを牽制にしてコーナーから逃げ出す。
そう思ってたんだが。
次の俺の意識はトレーナーが俺の前でひたすら呼び掛けてるところまで飛んでいた。
一体何があった? 試合は?
「ケヴィン! 分かるか!?」
「ああ…。試合は…。いや、負けたか」
トレーナーがリングの中の俺の目の前にいるんだ。という事はそういう事だろう。
そうか。俺は負けたのか。
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