第102話 VSスーパーライト級ケヴィン4
☆★☆★☆★
『おおっと! これは珍しい! 皇選手がガードを上げて構えました! ここでまさかのスタイルチェンジです!!』
ケンセーがこれまでのノーガードのスタイルじゃなく、一般的なボクサーの構えを取った。
これをどう見るべきか。
付け焼き刃ではないはずだ。
実際前の試合でもちょこちょこと見せていた。あの時はフリッカーに通常のジャブを混ぜてる感じだったが。
このラウンド展開は悪くない。
どちらかと言えば俺がペースを握ってると思う。毎日毎日研究しただけあって、ケンセーのリズムってのが掴めてる。
ケンセーもそれを理解したのか、無理矢理にでも自分のペースに持っていこうとしたのだろう。
お手本のようなワンツーを放ってくるが、これは冷静に対処する。
ケンセーはリズムを変えたくてスタイルを変えたんだろうが、悪手としか思えない。通常スタイルのボクサーの相手は俺が最も得意とするところ。
少し焦ったか?
若さが出たのかもしれねぇな。
これはチャンスだ。後半を有利に進めるためにも、ここをしっかり制してポイントを着実に確保させてもらおう。
「シッ!」
『皇選手! 矢のようなジャブの連打! チャンピンのケヴィン選手、ガードはするものの対応に苦慮してるように見えるがどうだ!?』
あ、あれ? おかしいな?
ケンセー? こっちのスタイルの方が強くねぇか? 全然前に進めねぇんだが?
ジャブが速すぎる。
軌道の読みにくいフリッカーも厄介だったが、シンプルに速いジャブも面倒この上ない。
俺もジャブを打っていくが、リーチ差が如実に出てやがる。ケンセーは安全圏からバシバシ打てるのに、俺は少しリスクを冒して踏み込まないといけない。この差はデカい。
少しでも気を抜くと雨霰とパンチが飛んでくる。
「フッ!」
勿論ジャブだけじゃなくて、ストレート、フック、アッパーどれもこれもが一級品だ。
しかも常にカウンターを狙ってるのか、俺が少し踏み込むだけで、腕が反応してやがる。
ケンセーのカウンターの鋭さはこれまでの映像でしっかり分かってる。フェイントだと分かってても少し躊躇してしまうな。
しかもケンセーの顔だ。
さっきまでは楽しそうにボクシングをやってたってのに、今は俺の事を虫でも見てるのかってレベルの視線で見ている。
恐らく俺の事を観察してるんだろうが、あの視線が恐ろしくて仕方ない。俺が何をやろうとしても全部見抜いてくるんじゃないか。
そういう目付きをしてやがる。
………ビビってても仕方ねぇか。
ケンセーが強いのは最初から分かってた事だ。なんたってあのケンシの息子だぜ。恵まれた体と才能、それに最高の指導者。これで強くなれねぇなら、詐欺ってもんよ。
チラッと時計を見ると残り時間は15秒だった。ここは腹を括って一回攻めてみるか。
じゃないと、次のラウンド以降の対策も出来やしねぇ。
俺はケンセーのジャブをガードで耐えつつ前進。ジャブ以外にもストレートやアッパーで俺の前進を止めようとしてくるが、ここは止まれねぇ。多少のダメージ覚悟で突破させてもらう。
接近戦に持ち込み、しっかり踏ん張ってケンセーのパンチをガードで防ぎ、ストレートの打ち終わりを狙ってカウンターを放つ。
しかしその瞬間俺は失敗を悟った。
今まで無表情だったケンセーの顔が獰猛な肉食獣のような顔に変わって、待ってましたとばかりに、俺のカウンターに合わせてカウンターを放ってきた。
その瞬間はやけにスローで、それなのに体は全く動かなくて。ケンセーの右フックが俺のこめかみを捉えたと思った瞬間にゴングが鳴った。
ケンセーはパンチをギリギリで止めたのか、俺のこめかみを触れる程度で止めていた。
一気に冷や汗がブワッとでて時間が動き出す。スローの瞬間全く動かなかった体は平常心を保ちながら、それでいて逃げるようにセコンドへと向かった。
あのパンチを当てられてたらやばかった。
間違いなく倒れていただろう。ケンセーはゴングで止めていたが、あれは打ち抜かれていても文句は言えないタイミングだった。
誘われたか?
ちょっとムキになっちまったのかもしれねぇ。ケンセーの事を若いとか思ってた自分をぶん殴ってやりてぇぜ。
あいつは思った以上に強かな人間だ。
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