第95話 インタビュー
試合まで一ヶ月を切った。
減量も順調で、やっぱり前回より2kgぐらい余裕があるのがありがたい。
苦しいのは苦しいが前回程じゃない。
まだそれなりに食べられてるしね。
水を制限し始めてからが本番だ。
「それでは今のところは順調と?」
「そうですね。あくまで今のところはですけど。これからもこの調子でいきたいです」
そんな俺は現在インタビューを受けている。天下ジムの一角でテレビカメラに囲まれながら聞かれた事にテキパキと答える。
「次戦の相手、ケヴィン選手についての印象はどうでしょうか?」
「パワー、スピード、テクニック。三拍子揃った凄い選手だと思います。こういう言い方は良くないんですが、映像をちゃんと見るまではもっと雑な選手だと思ってたんですよね。思ったよりも真面目な人なんだなと思いました」
「真面目ですか?」
「ええ。もっとフィジカル偏重な感じだと思ってたんですけど、映像を見る限り基礎に忠実ですし。車谷さんとかにプレイスタイルは似てますよね。真面目に練習してないと、あそこまで体に染み付かないんじゃないかなと」
ほんとに。
ケヴィン選手は見れば見るほど真面目って感じがするんだよね。試合前のインタビューとかでトラッシュトークとかも結構あるみたいだけど、根は絶対真面目な人だと思う。
「既にケヴィン選手からも話を伺ってるんですが、相手はやる気満々でしたよ。自分に挑んだ事を後悔させてやると言ってました」
「あははは。それは怖いですね。後悔するのはどっちになるか楽しみです」
良いじゃないか。言い訳出来ないぐらい圧倒的に勝ってやる。ここ最近は早いラウンドでの決着がないからな。
TV局の人達からすれば嬉しいかもしれないが、ここらでスパッと短いラウンドでの決着というのを見せてやりたいところだ。
まあ、試合展開によるんだが。
インタビューが終わった後は公開練習だ。
父さんにミットを持ってもらってのミット打ち。
仕上がり順調をアピールする為にそれなりに気合いを入れて行う。
「シッ!」
最近特に力を入れてるのはアッパー。
ケヴィン選手はガードがとにかく固い。
序盤は耐えて耐えて耐えて、相手が焦った大振りになってきたところを的確に仕留めていくんだ。異名がスナイパーって言われてるぐらいだからね。
俺相手でもしっかりガードを固めてくるだろう。ジャブやストレート、フックだけでもガードをこじ開ける自信はあるけど、オプションは多い方が良い。下からガードを割るためのアッパーの練習を繰り返す。
この練習を見せても良いのかって話だけど、別に構わないと思っている。
この練習を見てアッパー対策をしてくれば、他のパンチが刺さるようになるしね。
「おおっ!」
アッパーのダブルで父さんの腕を跳ね上げると、周りからは歓声が上がった。
滅茶苦茶良い音なったしな。父さんはミットを鳴らすのがお上手で。
会長が一番上手いけど。あの人ほど気持ちよくミットを鳴らせる人はいないんじゃないかな。関西弁でやかましいだけの人じゃないんだぜ。
「よし! ラスト30秒! 連打!」
父さんからの合図でランダムに出されるミットに猛スパートをかける。
これがミット打ちで一番きつい。30秒間無呼吸でパンチを打ち続けないといけないからね。
しかも適当にじゃなくて、父さんが指定したミットに打たないといけない。ストレートだけじゃなくて、フックやアッパーなどを混ぜつつ、最後はフックで父さんの腕を弾き飛ばして終了だ。
ミット打ちが終わると、周りから拍手が巻き起こる。
さあさあ、ケヴィン選手。これで俺の調子は絶好調って分かってもらえただろう。
恐れ慄け。首を洗って待ってろーい。
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