第96話 チャンピオン陣営
☆★☆★☆★
「ケヴィン。時差ボケは大丈夫か?」
「ああ。今の所問題ない」
試合まで3週間を切ったところで、世界戦が行われる日本にやって来た。ここからは日本のジムで調整しながら、ケンセーとの戦いに準備していく事になる。
今日は日本に来たばかりで休養。ホテルでケンセーの練習動画を見ていた。俺にも日本の記者がインタビューに来たが、勿論ケンセーもインタビューを受けたらしい。
「仕上がりは順調そうだな」
「ああ」
トレーナーも一緒に見ていたが、ケンセーの練習を見る限りでは仕上がりは順調。
減量で苦しんでる様子もあまりない。
「お前の大好きなケンシもいるじゃないか。現役を退いたってのに良い体してやがる」
「知らねぇって言ってんだろ!?」
「まだ言うのか」
トレーナーの野郎がニヤニヤしながらからかってきやがる。こいつの前で口を滑らせた俺が悪いんだが、事あるごとに言及してくるのは勘弁してくれ。
「お前が素直にケンシのファンだと言えば良いだけじゃないか。必死に知らないフリをしてるからからかいたくなるんだぞ?」
「うるせぇな! なんか、こう、察しろよ!」
「わはははは!」
何を笑ってやがる。
俺だって認めれば良いってのは分かってるさ。でもファンの息子とタイトルを賭けて戦うんだぞ? なんかあるだろ? この素直に認めたらいけない感覚ってのがよ。
「まあ、ケヴィンの大好きな人間云々は置いておこう。試合が終わった後にサインでももらえば良いさ。問題はケンセーの方だ」
「サイン…。もらえるかな?」
思わず聞き返してしまった。後3週間後には試合って分かってるんだが、どうしてもな。
ケンシの試合を見て俺はボクシングを始めたんだ。もらえるなら当然欲しい。
一応サイン色紙三枚とケンシの現役時代のTシャツを五枚持って来てあるんだが。なんとか試合後とかに時間を作ってもらえないもんか。
「だからとりあえず置いておけ。まずはケンセーの方に集中しろ」
「分かってる」
勿論ファンの息子だからって手心を加えるつもりは一切ない。試合が決まってからひたすら試合映像を見て研究はしてきた。
「過去の試合映像を見て対策は色々してきたが、この練習映像を見ると上方修正が必要だな」
「ああ。キレが全く違う。階級を上げて更に強くなってる。階級の壁とかはなさそうだな」
「まあ、あの身長でこの階級にいる事がおかしいんだがな」
「リーチ差だけはどうしようもねぇ」
元からケンセーがライト級にいる事がおかしいんだ。あの身長ならヘビー級にもゴロゴロいるぞ? 日本人というか、アジア人は筋肉がつきにくいって聞いた事があるが、ケンセーはそれに当て嵌まらないだろう。
まるで筋肉の鎧みたいなのを纏ってやがる。
「減量に失敗してくれたら嬉しかったが、順調そうだしな。多少は苦労するだろうが、本番にはきっちり仕上げてくるだろう」
「ああ」
たまらねぇな。
これでまだ成長途中の18歳。これからもまだまだ伸びるんだろう。いつかはボクシング界で偉業を成し遂げたりするかもしれない。
だが、それは今じゃない。
俺がケンセーの順風満帆のボクシング生活に待ったをかけてやる。
ケンシの息子だからって容赦はしねぇぞ。
絶対に勝ってやる。
「お前が勝ったらケンシにサインを貰いにいくのは煽りになるんじゃないか?」
…………ぜ、絶対勝ってやる!
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