第90話 もうすぐ夏休み


 「そうか。別にパンチにパンチする必要もないな。相手の体勢を崩せれば良いんだし」


 「「「………」」」


 対戦相手が決まったって事で本格的な練習を開始。大体の練習が終わった後に、いつものスパーリング三銃士と練習。


 この三人も日本タイトル挑戦に向けて猛練習してる真っ最中だし、俺も熱が入るってもんよ。


 で、そういえばリュカ選手と戦った時にまぐれで成功したパンチにパンチを当てて体勢を崩すやつ。あれを思い出して、なんとかモノに出来ないかと練習してたんだけど。


 「パンチを捌く時に弾けば良いのか。ちょっとでも体勢が崩せれば良いんだし」


 リュカ選手と戦った時もそうだったな。思いっ切り弾いたから、パンチをしたみたいになったけど、あそこまで大袈裟にじゃなくて、軽く弾くだけでも体勢は崩せるだろう。


 「よし。大体の方向性は掴めたぞ。ほら、先輩方、立って下さい。スパーリングを再開しますよ」


 リングの上で、はたまたリングの外で倒れてる三銃士に喝を入れる。

 近くでは孤南君が気の毒そうに見てるけど、そろそろ君もこっち側に招待するからね?


 孤南君も後二ヶ月程でこのジムに入って一年が経つ。真面目な性格なお陰か、基礎もしっかりしてきたし、そろそろ大丈夫だろう。

 後は会長のゴーサインを待つのみである。


 「お前な…もう少し手加減というものを…」


 「日本チャンピオンになるんでしょうが。そんな甘ったれた事言ってる暇はありませんよ」


 世界チャンピオンによる直々のスパーリングですよ。是非是非頑張って頂きたい。


 ………なんかこう言うと世界チャンピオンになったって実感するな。






 「もう少し手加減して……」


 「赤点取ったらボクシングが出来なくなるんだろうが。甘ったれた事言ってないで、さっさとその例題を解け」


 もう少しでみんなが大好き夏休み。

 だが、その前には大きな関門が立ち塞がっている。


 そう、期末テストだ。


 俺はピーピー言いながら龍騎に勉強を見てもらってる。こいつは本当に見た目に反して頭が良い。俺の勉強を見てくれてるのに、学年でも上位の学力。羨ましいったらありゃしない。


 「今回も先生達がパスくれてたろ? とりあえずそこを丸暗記だ」


 「どうせテストが終わったら忘れるのに、なんで覚えなきゃいけないんだ」


 「覚えるだけで点数が取れるんだ。つべこべ言わずにさっさと覚えろ」


 「今まで培ってきた技術も、スピードも、筋肉も、戦略も、経験も、スタミナも、足も、拳も、内臓も、脳も、知識も、思考力も。何も役に立たねぇ」


 「最後の方は役に立つだろ。てか、そのセリフを覚えれるなら暗記だって出来る筈だ」


 冷静なツッコミは求めておらぬ。

 好きなモノの記憶力と嫌いなモノの記憶力とでは、話は別だと思うんですよ。

 なんかそういう研究データとかないの? 絶対差があると思うんだよね。


 「世界チャンピオンが赤点で試合出来ませんは流石に恥ずかしいぞ。世界中の恥だ」


 「頑張ります」


 そう言われたら頑張るしかあるまいて。

 確かに世界中から笑われるのは間違いなさそうだしさ。


 トレンドが赤点になりそう。

 


 

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