閑話 スーパーライト級のチャンピオン達
☆★☆★☆★
「この前ライト級のチャンピオンになった皇が階級を上げるらしいぞ」
「は? もう?」
「ああ。どうやら相手が居ないらしい」
「勘弁してくれよ。あんなのと俺は戦いたくないぜ? なんとか断ってくれ」
オーストラリアの某所。
そこでは今話題沸騰中の皇がどうやら階級を上げてくると聞いて、練習していたスーパーライト級の世界チャンピオンがげんなりしていた。
「情けねぇな。それでもチャンピオンかよ。受けて立つぐらい言えねぇのか」
「俺は勝てる試合しかやりたくないの。勝てない試合なんてやりたくない」
「やってみるまで分からねぇじゃねぇか!」
「やるまでもないだろ! あれは化け物だよ! そんなのはアメリカの脳筋に任せておけば良いんだ!」
ぎゃーぎゃーと言い合いながら、話は平行線。結局対戦の打診はあったものの、のらりくらりとかわして。対戦が実現する事はなかった。
☆★☆★☆★
「ほう」
「どうした?」
アメリカの某所。
そこではとあるチャンピオンが、オーストラリアと同じように対戦の打診を受けていた。
「ジャパンのキッズがお前と戦いたいそうだ」
「ああ? スーパーライト級にそんなやついたかよ?」
「ケンセー・スメラギだ。この前ライト級でチャンピオンになった奴だ」
「知らねぇな。下の階級なんて興味がねぇ」
チャンピオンは目の前のサンドバッグを殴り飛ばしながら、鼻で笑う。
「プロになって負けなしだそうだ。お前と一緒だな」
「はっ! 一緒にすんじゃねぇよ。俺はもうプロで20戦以上のキャリアを積んでるんだぜ? ケンセーはこの前の世界戦でまだ5戦目だろうが」
「確かにそうだな。いや、待て。やけに詳しいじゃないか。知ってるのか?」
「あ…。知らねーよ!!」
チャンピオンは思わず出てしまった言葉に自分の失言があった事を認めず、顔を真っ赤にしながらサンドバッグを殴りまくる。
「そういえば、少し前にフリッカー対策を聞いてきていたが、それは…」
「関係ねぇ! 関係ねぇったら関係ねぇ!」
実はこのアメリカ人チャンピオン。
拳聖の父、拳士がアメリカで試合をした時に現地観戦しており、それ以来拳士の隠れファンなのである。
その影響でボクシングも始めたのだ。
引退した時は悲しかったが、それでも情報は密かに追っていたのだ。そして息子がデビューしたと聞いて、そのデビュー戦から全試合しっかりとチェックしている。
「どうする? 受けるか?」
「ふん! どこの誰だか知らねぇが、俺が逃げる訳ねぇだろ!」
「どうしてそこで意地を張るんだ。知ってるなら知ってるで良いだろう。むしろ、ちゃんと情報収集もしてるんだなと感心したぐらいだ」
「だから知らねぇって言ってるだろ! ケンセーだかケンシだか知らねぇが、まとめてぶっ飛ばしてやる!」
「ケンシ? それはトレーナーの…。なるほど」
途端に全てを理解したとばかりにニヤニヤし始めるトレーナー。
その顔を見たチャンピオンは顰めっ面をしつつも何も言えない。また口を滑らせてしまったので、次は何をやらかしてしまうか、自分でも分からなかったからだ。
「じゃあ了承の連絡を送っておくぞ。そうだ。今のうちにサイン色紙を用意しておいてやろう。向こうに行ったら使うかもしれんからな。あっはっはっは!」
「うるせぇ! とっとと消えやがれ!」
チャンピオンは顔真っ赤にしてトレーナーを追い払う。
「くそっ。ケンセーか。出来ればまだ戦いたくなかったな。まだ勝てるビジョンが湧かねえ。帰って研究に力入れねぇと」
チャンピオンは一人になったジム内で、ボソッと呟きながら練習を再開するのであった。
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