第78話 VSライト級リュカ1


 「うし。行くか」


 いよいよメインイベント。

 今回も俺が挑戦者なので先に入場。

 入場曲はもちろん『災害』。

 ルンルンでテンションを上げながら、ゆっくりと歩く。


 「メインイベントってすげぇな」


 歩きながら観客席を見渡すけど、熱気が凄い。前回も横浜アリーナでやったけど、全然気分が違う。


 リングに上がって四方にぺこりんちょとお辞儀をしてチャンピオンを待つ。

 前回の試合から五ヶ月。世界チャンピオンの車谷さんとスパーリングして、かなり成長出来たと思う。


 減量もかなり辛かった。

 早く階級を上げたい。その為にはこの試合に勝たなければならない。地獄のライト級から脱出だ。勝って王座を返上。すぐに階級を上げてやる。



 「両者中央へ!」


 ニコニコと周りに手を振りながら入場してきたリュカ選手もリングに上がりお互い中央へ。


 やっぱりこいつの笑顔はなんかムカつくな。なんだろう、殴り飛ばしたくなる笑顔だ。わざとやってるんだろうか? 


 勿論俺もニコニコ攻撃だ。スマイルで負けてはいられない。周囲はさぞ和やかな気分になってる事だろう。


 「殺気を撒き散らしてるぞ」


 「そんな事はない。俺の笑顔からはマイナスイオンが出てるんだ」


 審判からの注意事項を適当に聞き流して、セカンドに戻る。父さんからは失礼な事を言われたけど、気にしない。

 とにかく俺はあの笑顔をブン殴らないと気が済まないんだ。


 「逸るなよ。まずは相手のスピードに慣れろ。冷静にだぞ。分かってるな? 冷静にだぞ?」


 「分かってるよ」


 俺はそこまで子供じゃない。

 今すぐ殴り倒したい程の憎たらしい笑顔してる奴だけど、試合は冷静に進めさせてもらいますよ。


 

 そして第1Rのゴングが鳴った。


 リング中央でグローブを合わせる。

 早速リュカ選手はちょこまかと動き始める。


 俺はそれをリング中央でしっかり観察する。やっぱり身軽だなぁと思う。

 まだ本気で動いてないんだろうが、それでも速い。


 「フッ!」


 スパパパンと小気味良くジャブを三連発してきたのを、上体の動きだけで躱す。

 やっぱり映像よりキレがあるな。


 俺も軽くフリッカージャブを放つ。

 リュカ選手は一瞬動きを止めたものの、しっかりと距離を空けて対処。

 なんか間合いを測り損ねてる?


 続けざまにジャブを放つけど、毎回一瞬止まってから距離を取る。

 これはチャンスなのか、誘われてるのか。


 「シッ!」


 分からないから行ってみようって事で、ジャブを放って、一瞬止まった隙に一気に接近。一気にインファイトの距離に持ち込む。


 ここからが俺のスパーリングで鍛え上げたフットワークの見せ所。

 捉えた獲物は逃さんとばかりに、進路を誘導するパンチを放ちつつ一気にコーナーへ追い込む。


 連打をまとめて相手をコーナーに押し込む。さあ、ここからどう料理してやろうかと思ったら、ジャブを使って上手く逃げられた。


 むぅ。ちょっとコーナーに押し込んだ所で気を抜いてしまったか。せっかくのチャンスだったのにな。やっとその顔面に殴れるぞと思ったけど、逃しちゃったらいけないよ。


 もう一回仕切り直しだな。

 

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