第79話 VSライト級リュカ2


 コーナーから抜け出したリュカ選手。

 反対に俺がコーナーを背負う形になってしまった。俺もこの五ヶ月フットワークやらを磨いてきたけど、まだまだ甘いな。

 相手の方が巧みで、牽制のパンチを放ちつつ俺をコーナーから逃がさないようにしてる。


 チラッと時計を見ると残り40秒弱。

 思ったよりも時間が経ってる。どうしようかと思案してると、リュカ選手はパンチをまとめて放ってくる。


 スウェーで避けたり、グローブで弾いたりしてるけどとにかく速い。

 威力はそこまででも無さそうだけど、チクチクされて鬱陶しい。


 ふむ。誘うか。

 俺は敢えて隙を見せる。

 リュカ選手のジャブは速いから、カウンターを狙うのは慣れるまでは厳しい。

 隙を見せて少し大振りになってくれたらなと思ったんだけど、そこまで甘くなかった。


 大振りになるんじゃなくて、パンチのスピードが上がった。どうやらリュカ選手は自分のパンチ力がそこまでない事を理解してるらしい。一発大振りのパンチを当てたところで、決定打にならないと思ってるんだろう。


 それかカウンター狙いがバレたか。

 とにかく、大振りじゃなくてパンチの速度を上げてきた。これは俺ちゃん困る。

 クリーンヒットは貰ってないけど、着実にポイントを取られてるな。


 だるいなーと思いながら、ふと面白い事を思い付いた。お前余裕だなと思うかもしれないけど、実際コーナーは背負ってるものの、そこまでピンチと思ってないし、色々考える余裕がある。


 俺はリュカ選手のジャブの一つをパリングして思いっきり弾く。今までの捌く感じじゃなくて、ジャブにパンチを打つ感じだ。

 その予想外の行動にリュカ選手は、ジャブが流れてバランスを崩した。


 俺はその隙を逃さず左ボディを突き刺す。

 若干体が浮いたような気がする。それぐらいの手応えがあったクリーンヒット。

 そこから更に追撃しようとした瞬間ゴングが鳴った。


 リュカ選手は相変わらずニコニコしてるけど、同じニコニコを信条にしてる俺には分かる。あれは結構我慢してるなと。


 俺はニコニコ笑いつつ軽く鼻で笑って、セカンドに戻った。すぐに振り返ったから、リュカ選手がどんな顔してるか分からないけど、中々良い煽りになったんじゃなかろうか。


 そのにやけた面を絶対にぶっ飛ばしてやるからな。この言葉がブーメランにならないように、次のRも気合いを入れていこう。




 「どうだった?」


 「やっぱり速いなーとは思うけど、それだけだね。あれなら近い内に捉えられると思うけど」


 「油断だけはするなよ。まだ1R目だし、向こうも本気で動いてる訳じゃないだろう。まだまだスピードが上がると考えとけ」


 「いえっさー」


 油断はしない。さっきコーナーに追い詰めて、気を抜いて失敗しちゃったからね。

 どうしてもあの顔を見ると顔面を殴りたくなる。あの左ボディも顔面に持って行ってたら、躱されてたかも。


 「徹底的にボディ狙いの方が良いかな」


 「だな。相手の意識をとにかく下に。ジャブも顔じゃなくてボディを狙っていけ。それでスピードも止めれるだろうしな。完全に意識が下にいったら顔面だ。一撃で仕留めろ。仕留めきれなかったらまたやり直しになるぞ」


 ふむ。確かに。

 中々俺好みの作戦だな。

 顔面にパンチをぶち込むのはとりあえず封印してやろう。まずはボディであのにやけ面を苦悶の表情に変えてやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る