第73話 お勉強


 「ふぐぅ」


 「拳聖、お前ちゃんと授業を聞いてるのか?」


 学期末テスト一週間前。俺はチンピラを家に呼んで勉強を教えてもらっていた。

 ジムもテスト一週間前になってから、軽い練習だけにしていて、勉強に集中させてもらっている。そうじゃないと、とてもじゃないが赤点を回避出来ない。


 それぐらい今の俺の現状はやばいんだ。


 「ちゃんと聞いてるし、一応時間がある時に復習もしてるんだよ?」


 「それでこれって…。どうしようもねぇな」


 容赦ないチンピラの言葉のパンチが俺をぐらつかせる。スパーリング三銃士のパンチより全然鋭い。コーナーに追い詰められてダウン寸前だ。


 ちょっと前までは車谷さんとのスパーリングで頭がいっぱいだったけども。

 それが終わってからは真面目に授業を受けてたのに。


 どうして俺の頭の出来はこんなに悪いんだ。特典がなかったらとんでもないドラ息子になってたぞ。聖歌は普通に頭が良いっぽいし…。


 「ごめんねぇ、澤村君。自分の勉強もあるのにわざわざ拳聖ちゃんの勉強をみてもらったりして」


 「いえ! いえいえいえ! 全然大丈夫ですよ! うちはある程度成績を取れば何も言われないので!」


 俺がヒーヒー言いながら勉強してると、母さんが俺の部屋にお茶とお菓子を持ってやってきた。

 因みに澤村はチンピラの名前だ。


 澤村は母さんの大ファンである。もしかしたら俺の家に来れて役得ぐらいに思ってるのかもしれん。まぁ、友達の家に行ったら芸能人が居るって普通にすげぇよな。


 「澤村君が成績を落としてないか心配だわ」


 「ほんと全然大丈夫なんで!!」


 「そう? 申し訳ないけど拳聖ちゃんの事お願いね? この子、才能をボクシングに全部持っていかれちゃったみたいなの」


 澤村君の成績は学年で常に五位以内。

 ほんと見た目詐欺なチンピラだ。


 俺の才能は特典ありきだからね。多分ボクシングじゃなくても、この特典があれば大抵のスポーツがあれば大成したんじゃないかと思ってる。

 父さんがボクシング選手で俺がボクシングにハマったからやってるけどね。


 「拳聖ってさ、自分の母親に興奮したりしないの? あんな美人と毎日一緒って俺なら頭がおかしくなるぞ」


 「する訳ねぇだろ」


 母さんが部屋から出て行ったらチンピラがとんでもないことを言い出した。

 言ってる事は理解するが、俺はそんな特殊な性癖は持ち合わせていない。


 「いや、お前が常々言ってるだろ? 美春さんみたいな人をお嫁さんにしたいって。だからそういう事もあるのかと思って」


 「それとこれとは話が別だ」


 勘弁してくだせぇ。俺は性格的な話をしてるのであって、容姿の話をしてる訳じゃない。勿論、お嫁さんが美人であることにこした事はないと思うが。


 「ほら。そんな事は良いからここを教えてくれ。数字とアルファベッドばかりで、訳が分からん」 


 「これは公式を暗記しなきゃだめだ」


 そんな事より勉強よ。

 俺の高校生のうちに世界チャンピオンになる計画はお前にかかってる。

 赤点を取ったらボクシング没収って母さんに言われてるからな。


 ほんと、こいつには何かお礼をしないと。

 何が欲しいんだろ。チンピラみたいだし、メリケンサックでもあげればいいのかな?

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