第70話 足捌き


 二回目のスパーリングも終了。

 『瞬きパンチ』の攻略はなんとかなったものの、それを俺がやろうと思っても全然出来なかったし、まず普通にパンチが当たらん。


 スピード負けしてるのはきついな。

 こっちもかなり頭を働かせて、動きを誘導して予測してパンチしないといけない。


 俺は出来てるつもりだったけど、世界レベルの相手にはまだまだだって思い知らされたね。


 思えばOPBFタイトル戦だって、7R目までもつれ込むのは、俺のその辺の経験が未熟すぎたからかもしれない。


 もちろん相手のヘムサポ選手が強かったのもあるけど、俺は今まで小手先の技術で誤魔化してたんだなってのがよく分かった。

 父さんも言ってくれれば良いのに。車谷さんとスパーリングしなかったら気付かないところだったよ。


 「お疲れ様です!」


 「ああ、孤南君ありがとう。外から見ててどうだった?」


 孤南君がタオルと水を持って来てくれた。

 水をゴキュゴキュ飲みながら、さっきのスパーリングがどうだったか聞いてみる。


 「駆け引きはチャンピオンの方が上だなと思いました。拳聖さんは良い様に振り回されてる印象です」


 「やっぱりかー。俺も戦いながらそう思ってたんだよね。ちょっとその辺りの引き出しが俺には少なすぎるな」


 今週も映像を見直して、来週のスパーリングまで研究だな。最近は派手なパンチとか、必殺技を考えたりしてたけど、そんなんどうでもいいね。


 まずは足の動かし方からしっかりやり直そう。また今週は勉強に集中出来ないな。

 ただでさえ馬鹿なのに、授業に集中出来ないのは困るんだけど。チンピラに泣きつくしかないか。




 「奥が深い。深すぎる」


 映像を見て反省をしてから三日が経った。

 スピードで負けてるぜーなんて思ってたけど、良く見たらそんな事がないような気がする。


 車谷さんには動き方に無駄が無いんだ。それに比べて俺は無駄が多い。だから、試合中はスピード負けしてると勘違いする。

 いや、無駄が多いというより、車谷さんの巧みな誘導で無駄な動きを強制させられているって言った方が良いか。


 本当にボクシングは奥が深い。足を一歩動かすだけで、こんなに人を誘導出来るんだ。

 俺がやってるのは、まだまだ喧嘩レベルだって事だな。


 「こうか? いや、こうの方がいいか」


 リビングのテレビで映像を見ながら、場面場面での足の動かし方を確認して、ステップを踏んでみる。


 「うんうん、悪くない」


 目を閉じて、この足の動かし方をした時の車谷選手の動きをシミュレートする。

 あくまで想像だけど、その後展開がかなり楽だな。


 「それをやるなら部屋に行け。危ないぞ」


 リビングで目を瞑りながらシャドーボクシングをしていたら、ペシっと父さんにパンチを掴まれた。地味にショックなんだが。

 そんなにあっさり掴まないで欲しい。


 でも父さんの言う事はもっともだな。

 目を瞑ってるし、足を何かにぶつけたりするかもだし、母さんや聖歌にも迷惑だ。


 「クルとのスパーリングはどうだ?」


 「最高だね。やるたびに課題が見つかって、それを潰していくのが楽しい。毎日成長を実感出来るよ」


 「それは何よりだ」


 まだまだこれから。

 もっともっと成長したい。

 9階級制覇目指して頑張らないとね。



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