第65話 豪華な相手


 「豪華なスパーリングパートナーを確保してきた会長に感謝」


 「焼肉奢れや」


 リュカ選手との試合が決まって、俺の練習も本格化。俺の好きなだけご飯を食べるタイムも終了である。


 とにかく速い選手なので、スピードがあるスパーリングパートナーを所望した翌週には、俺も驚く相手を連れてきた。


 「車谷です。よろしくお願いします」


 「よろしくお願いします」


 バンダム級世界チャンピオン。この前俺と一緒の日に試合をして見事3度目の防衛に成功した父さんの大ファンの人だ。


 会長がダメ元でお願いしたら是非にと食い気味でオッケーしてくれたらしい。

 階級は違うけど、世界チャンピオンとのスパーリング。週一で一ヶ月やらせてもらえるらしい。こんな技術を学ぶチャンスは滅多にない。胸を借りるつもりでやらせてもらおう。


 「拳聖君、体柔らかいね」


 「柔軟は2.3歳からずっとやってます」


 とりあえずウォーミングアップ。俺はいつも通りマットを敷いて柔軟から。車谷さんも柔軟には力を入れてるみたいで、一緒にやってるんだけど、やっぱり俺の体の柔らかさには驚いていた。


 「この後はどうするんだい?」


 「スパーリングする日は5kmぐらい走ってそこからずっとですね。ない日は10kmぐらい走りますけど」


 「じゃあ俺もそれに付き合おうかな」


 って事で、そのままランニングへ。

 速くもなく遅くもなく。一定のペースで走る事を心掛けて、最後の1kmはダッシュとインターバルを繰り返す。


 やはり世界チャンピオンは体力もあるのか、普通についてきた。孤南君やスパーリング三銃士ならぶっち切れるのに。密かに自信があっただけに悔しい。


 「よろしくお願いします」


 「よろしく」


 帰ってきたら、早速スパーリング。

 ヘッドギアをつけて開始だ。


 車谷選手はオーソドックスな構えで、基本に忠実な選手ってイメージだ。

 それでいて、スピードもパワーもある。現役時代の父さんみたいな人だ。


 様子見をしてるみたいなので、ここはペーペーの俺から仕掛ける。

 いつも通り、ダラリと下げた腕からのフリッカージャブ。


 「シッ!!」


 車谷選手は若干驚いた表情をしてたけど、冷静に足を使って回避。簡単に当たるとは思ってなかったけど、あっさり躱されたのはショック。ヘムサポ選手でも、もっと大袈裟な感じだったのに。


 「はっや!」


 フリッカーの打ち終わりに、車谷選手は急接近。速いとは思ってたけど、想像以上だ。

 足を使って離れつつ、下がりながらジャブを放つ。


 適応早すぎ。もう間合いを見切られてる感じがする。これが世界チャンピオンなの?

 優秀すぎない?


 が、俺も負けてられない。ギアを上げたり下げたりと緩急を使って、的を絞らせないようにする。これはヘムサポ選手との試合で学んだ。緩急の付け方が上手だったんだよね。


 そこで3分が終了。

 お互いクリーンヒットは0で終えたけど、終始俺が押されてた。


 「どうや?」


 「やばいっす。滅茶苦茶勉強になりますね」


 リュカ選手対策で来てもらったけど、そんなの関係ないぐらい勉強になる。

 相手を追い詰める為のフットワークや、誘導の仕方なんて、俺が今までやってたのはお遊戯だと思っちゃうレベルだ。


 むふふ。もっともっと学ぶぞ。良いところは全部吸収させてもらうからね。

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