第58話 VSライト級ヘムサポ3


 「強ーい」


 俺はそう呟きながら、コーナーに用意された椅子に座る。

 第2Rは積極的にインファイトに持ち込もうとしたけど、なんだか上手くいなされた。

 防御もしっかりしてるんだよなぁ。ジャブも厄介だし。今までで1番強い対戦相手だね。


 「その割には嬉しそうじゃないか」


 「楽しいからね。色々勉強になる事も多いし」


 あの最後のアッパーは当たると思ったんだけどなぁ。なんかボディを滅茶苦茶警戒してたから、咄嗟にボディフックから、アッパーに変えてみたんだけど。

 間一髪で避けられた。予想してたとかじゃなさそうだったけど、勘も鋭いのかね。


 「インファイトで仕留めれそうか?」


 「向こうがやり合ってくれたら、カウンターを合わせれると思うんだけど、深入りしてこないからなぁ」


 なんか後一歩ってところで、スルリと力を抜かれてる感覚。

 やっぱり長いRを戦う事になりそう。


 「恐らく向こうは後半勝負に賭けてるんだろう。フリッカーに慣れようとしてる感じがある」


 「なるほど」


 「向こうがフリッカーに慣れたらスイッチだ。サウスポースタイルで度肝を抜いてやれ」


 ほーう。それは面白そうだ。敢えてフリッカーに慣れさせる訳ね。


 「じゃあ次のRからはとりあえずアウトボクシングでペシペシやるかな」


 「ああ。勿論いけそうなら自分のタイミングで仕掛けてもいい」


 「いえっさー」


 セカンドアウトの声が聞こえて立ち上がる。第3Rの始まりだ。




 ☆★☆★☆★


 「もう見切れました。次で仕掛けます」


 「そうか。思ったより時間が掛かったな」


 第6Rが終わった。

 皇は3Rから突っ込んで来ずに、リーチ差を活かしてリングを支配してきた。

 正直、第2Rみたいに突っ込んで来られた方が面倒だったかもしれない。でも、向こうもそれを続けられるスタミナはないんだろう。


 リング中央を陣取り、ひたすらフリッカーを打たれるのはきつかったが、ようやく間合いを掴む事が出来た。


 「ポイントは今のところ負けてるよね」


 「こっちも手を出してるが、ずっと打たれてるからな。ダメージは大丈夫か?」


 「体の芯に残る様なダメージはないけど、シンプルに体が痛い」


 ひたすら鞭で叩かれてるようなものだ。

 ふらつくような事はないが、体中がヒリヒリしている。これは明日、体腫れまくるだろうなぁ。


 「向こうはこっちが後半勝負なのは分かってるだろう。チャンスはそう多くないぞ。しっかり仕留めてこい」


 「頑張るよ」


 向こうがあまり疲れた様子を見せないのが気になるところだけど。

 出来ればもう少しスタミナを削っておきたかったけど、贅沢は言ってられない。


 そして第7Rが始まった。


 「ん?」


 皇が仕掛けてきたら、一気に接近しようと思ってたんだけど、なにやら構えがおかしい。


 「な!?」


 皇が右でフリッカーを放ってきた。

 まさかのサウスポー!! これは予想してないよ。こっちが慣れたところでスイッチか。ほんと、いやらしい手を打ってくるね。


 まいったな。スイッチは単純に左右が逆になるんじゃないんだよね。

 左の間合いでようやく慣れてたのに、逆にされると全てが狂う。


 「困った」

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