第56話 VSライト級ヘムサポ1
ゴングが鳴って1R目が始まる。
ヘムサポ選手は前回の試合みたいにいきなり仕掛けてくるのを警戒してたっぽいけど、今日は長丁場も覚悟してるので。ゆっくりとペースを掴ませてもらいますよ。
『これは意外! 予想とは違い穏やかな立ち上がりとなりました!!』
ジリジリと中央に近寄る。まずは場所取りだ。
出来ればリング中央を陣取って、そこからジャブで組み立てたい。相手をぐるぐると動かしてスタミナを削りたいんだが。
「シッ!!」
いつも通りほぼノーガードで。
そこからフリッカーで圧力を掛けていく。
しかし、そこは相手も熟練のチャンピオン。
しっかりと距離を取って対応してくる。でもそれで良いんだ。
『皇拳聖! リング中央から更に圧力を掛ける!!』
俺の方がリーチは長いんだ。
このまま中央からジャブでリズムを作っていきたい。夜木屋選手はギリギリのところで俺のフリッカーを躱してたけど、ヘムサポ選手は結構距離を空けてかなり大袈裟に避ける。
多分俺のフリッカーに距離を掴み損ねてると思うんだけど。そう考えると夜木屋選手って凄いな。
初見で綺麗に避けてたし。
チャンピオンのヘムサポ選手も手を出してくるけど、リーチ差が顕著に出てる。
フリッカーの対応に苦慮してるからか、中々近付いてこれない。
「うおっ!」
もう一歩踏み込んでみるかと近付いた瞬間、マシンガンみたいなジャブが飛んできた。
やばいな。相手の射程圏に入ったらジャブの差し合いで負けるかもしれん。それぐらい鋭くキレのあるジャブだった。
うーん。困った。
ヘムサポ選手のジャブも捌けない事は無いから、徐々に距離を詰めて有効打を与えたいところだけど、まだ1Rなんだよね。焦らない方が良いんだろうか。今までとレベルが違うから、ちょっと慎重になっちゃうね。
「シッ!」
俺がどうしようか迷ってると、ヘムサポ選手はいきなり急接近。パンチを2.3当ててから、安全圏へ脱出していった。
『このままではラチがあかないと思ったかチャンピオン! ヒットアンドアウェイで皇に襲い掛かる!!』
クリーンヒットはもらってないし、ちゃんと躱せてる。でも意外と速い。どっちかというと、ハードパンチャー寄りだと思ってたんだけど。
スピードもしっかり兼ね備えてる感じか。映像で見るのと、実際に体験するのとでは全然違うな。
カーン!!
ここで第1Rが終了。
今までで1番考えさせられる試合だ。
「どうだ?」
「うーん。フリッカーに慣れられたら面倒かも? その前に仕留める事が出来たらベストだけど」
コーナーで椅子に座って父さんと情報交換。
まだまだチャンピオンは引き出し持ってるだろうしなぁ。油断は出来ませんな。
「次のRは一旦インファイトを仕掛けてみろ。相手の対応次第でプランを決める」
「いえっさー」
ふむふむ。インファイトね。
あのマシンガンジャブを掻い潜る訳か。
中々過酷なミッション。燃えてきた。
俺はヒットアンドアウェイを仕掛けてくるなら、ヒットの瞬間にカウンターをぶち込んでやろうかと思ってたんだけど。
確かにインファイトの対応が拙いならそれで勝負を決めた方が手っ取り早いよね。
「よし! 行ってこい!」
水で口をぐじゅぐじゅぺってしてマウスピースを咥える。
「カーン!!」
そして第2Rのゴングが鳴った。
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