第51話 父の心中
「シッ!」
12月29日。計量前最後の練習だ。
今は父さんを相手にミット打ち。
なんだけども。
「今までで一番キレが悪いな」
「お腹空いた」
お腹が減って力が出ない。顔が濡れて力が出ないアンパンマ○と一緒だ。
いや、そこまで酷い訳じゃないけど。なんかずっと小腹が減ってる感覚。
どうしても食べたいって訳じゃないんだけど、食べれたら嬉しい。そんな感じ。
「体のキレは悪いんだけどね。なんか滅茶苦茶見える」
「神経が過敏になってるからだ」
いつも以上にパンチが見える。ってか、相手の行動の起こりまで見えてくる。
が、その見えてるのに体がついてこない。ワンテンポ遅れる。勿体無いよね。この境地をキープして、万全の体にしたい。なんとかならんもんか。
「神経は過敏過ぎるとかなり疲れるぞ。今はアドレナリンが出てるからマシかもしれんが、練習が終わると一気に疲れが出るはずだ。今日はこの辺にしておこう。疲労を抜く期間なのに、溜めちまったら意味がない」
「いえっさー。シャワー浴びてきます」
「間違っても水は飲むなよ」
「分かってらーい」
本当に減量がやばい人はシャワーすら浴びれないらしいからな。
皮膚から水分を吸収しちゃうらしい。俺は流石にそこまでじゃない。将来的には分からんが。
水も飲めるしね。一日に飲める制限はあるけど。
☆★☆★☆★
「凄いな、拳聖のやつ。普通に寝てるぞ」
「あなたは計量前いつも寝れなかったのにね」
今回はいつもより拳聖の減量はきつそうだった。
だから、少し心配で部屋を覗きに行ったんだが、アイマスクをして気持ち良さそうに寝ていて、拍子抜けしてしまった。
俺も減量前の苦しみは良く知っている。
今までは苦もなく減量していた拳聖だが、今回は本格的な減量ということでアドバイスを色々用意してたんだが無駄になったな。
「あっという間にOPBFまできたなぁ」
「分かってた事でしょ? あなたは才能の塊だーなんて言って喜んでたじゃない」
美春とお酒を飲み交わしながら、拳聖の成長について振り返る。
ほんとここまであっという間だった。
今でも家でボール遊びをしてた頃を鮮明に思い出せる。あ、今でもやってるか。
「こんなに小さかったのにな」
「ふふふ。今ではあなたより大きいわね」
まさか我が息子がここまで成長するとは思わなかった。美春の方の血が出たかなぁ。
俺はお世辞にもタッパは大きくないし。しかもまだ成長してるときた。拳聖なら本当にヘビー級までいってしまうかもしれないな。
「だめだ。こっちが緊張してきた」
「あら? 添い寝してあげましょうか?」
拳聖は自然体なのに、トレーナーの俺が今から緊張してきた。プロ4戦目でOPBF挑戦は流石に早すぎだよ。こっちの心の準備が出来てない。
「ああ。お願いしようかな」
「素直な人は嫌いじゃないわ」
現役時代も美春と一緒なら不思議とすぐに寝れたんだよな。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
拳聖も将来は心安らぐパートナーを見つける事が出来るんだろうか。我が息子の浮ついた話を全然聞かないからちょっと不安になっちゃうな。
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