第49話 漫画


 「長い期間わざわざ来て頂いてありがとうございました。あなたの犠牲は忘れません」


 「死んでねぇよ」


 冬休みに突入した。

 テストは無事赤点回避。

 友人のチンピラには感謝しかない。大晦日の試合のチケットも来てくれるクラスメイト分は確保しておいたし、年末の試合は是非楽しみにしておいてほしい。


 「あいつは良い奴だったよ…」


 「ああ。あいつが居なきゃ今頃俺達は…」


 「惜しい奴をなくしたもんだ…」


 「だから生きてるって」


 別ジムから来てたウェルター級の人は今日でお役御免だ。二ヶ月近く練習に付き合ってくれて感謝感謝。お陰で当て感が更に良くなったように思う。


 スパーリング三銃士とも随分仲良くなったみたいで。一緒に苦楽を共にして、期間限定四銃士になってたもんな。

 俺のボディ打ち練習にも嬉々として参加してたし。その分何度もマットに転がしてやったが。




 「おー拳聖! 今日も走ってるのか!」


 「試合までもう少しだからね」


 ロードワークの最中。

 いつも通る道では結構声を掛けてもらえる。

 なるべく人通りの少ない道を通るようにしてるんだけど、人が全くの皆無って訳じゃないからね。


 「あ、拳聖だ!」


 「おっ。がきんちょ共。そろそろ暗くなるから早く帰れよー」


 公園の近くでは小学生くらいの子供に声を掛けられたり。


 「拳聖君。みかん持って行くかい?」


 「減量が終わってから欲しいなぁ」


 犬を散歩中のお婆ちゃんにお裾分けを頂いて。


 「おーい。垂れ幕作ったぞ! 次の試合も応援に行くからな!」


 「てんきゅー!!」


 いつも応援に来てくれるおっちゃんにエールをもらって。



 「うーん天下ジムはみんなに愛されてるな」


 ロードワークから帰ってきて、そう思う。

 これは別に俺だけじゃなくて、天下ジムに所属してる選手はみんなこんな風に声を掛けてもらえるんだ。ロードワークのコースも大体一緒だしね。

 父さんが現役の時代からそうらしい。


 最近の人間は冷たいだなんて良く言うけど、この近所の人達はみんな優しい。

 試合後は勝っても負けても差し入れとかしてくれたりするしね。


 試合前に差し入れしないあたり優しい。

 試合前はせっかく頂いても減量中で食べれなかったりするからね。

 さっきみたいに気にせず渡してくる人もいるけど。


 「俺も早くビッグになって地元に還元したいぜ」


 観光大使とか喜んでやりますぜ。

 こんなあったかい地元他にないからね。


 「あ、拳聖君。お疲れ様です」


 「お疲れちゃーん。孤南君は今から?」


 「はい! 今日も倒れるまで走ってきます!」


 孤南君は順調に成長していっている。

 ロードワークとかも毎回ヒーヒー言ってるけど、普通にこなすんだよね。

 地味な練習を続けられるってのも、一種の才能だよ。普通にセンスも良さそうだし。


 「さてさて。俺は最近の日課をしましょうかね」


 俺は今日の練習が全部終わったって事で、ジムに置いてある漫画を手に取る。

 ボクシング漫画が一通り置いてあるんだ。


 漫画といって馬鹿にしちゃいけない。

 結構参考になる事や技が書いてあったりして、俺もここから着想を得たりしてる。

 フリッカーなんてその最たる例だ。


 「動画とかも参考になるけどね。漫画は日本の宝だよ」


 スマッシュとかもそろそろ覚えちゃおうかなんて考えてますよ。

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