第48話 減量


 「くそっ! ボーナスタイムが!」


 「順応が早すぎる!」


 「楽しい時間は一瞬だな…」


 椅子でぐるぐるして三半規管を鍛えよう大作戦は成功してるらしい。

 この練習を始めて約1ヶ月。

 もう30秒ぐるぐるじゃ気持ち悪くなる事もなくなって、ふらつく事も無くなった。

 今は嬉々として殴り掛かってきた三銃士を返り討ちにしたところだ。


 「ふむ。ぐるぐるの時間を伸ばすか?」


 「いや、これ以上は伸ばしても意味ないんじゃないですか? まぁ、効果は出てるので継続してやろうかなとは思いますけど」


 多分鍛えられてるんだと思う。

 だから継続してやろうかなとは思ってるけど、これ以上ぐるぐる時間を伸ばして意味があるのか。

 あんまりぐるぐるし過ぎてフラフラになっても、ボクシングの練習として成り立つのか疑問だし。

 何事もやり過ぎは良くないんじゃないかなと。



 季節は12月。

 大晦日の試合に向けて順調に体作りは出来てる。

 しかし俺にはその前に特大のボスを倒さないといけない。


 「助けてくれー」


 「どこが分からないんだ?」


 とある日の放課後。

 テスト1週間前という事で、学校中がピリピリしている。俺もピリピリしてる。

 減量で満足にご飯も食べれてないから余計に。

 脳みそを回転させるには甘いものが必須。しかし、減量中の俺は食べる事が出来ない。

 今までの試合前で一番苦戦している。


 「テストと減量のダブルパンチはやばいな。今度から気を付けよう。白鳥さんにも言っておかなくちゃ」


 俺はクラスメイトに勉強を教えてもらいながら、これからの事を考える。

 これは落とし穴でした。減量でちょっと勉強に集中出来ない。


 「今回は結構先生が授業中にパスをくれてたろ? そこを重点的に勉強すれば赤点は免れるはずだ」


 「馬鹿な俺には何がパスだったのかが…」


 一応授業は寝たりせずにちゃんと聞いてるし、板書もしっかり取ってる。

 それでもあんまり理解出来てないんだがら、俺の頭の出来は相当よろしくない。

 頭の出来は父さん似か。そこは母さんに似て欲しかったね。


 「とりあえずこの公式は絶対に覚えるんだ。この公式とあと三つぐらい覚えておけば、数学は40点以上は取れるはず」


 「ふむふむ」


 「暗記モノは前日に詰め込むとして、問題は英語だな。壊滅的すぎる」


 「俺、日本人だし」


 これ、英語が出来ない奴の典型的な言い訳ね。

 日本人だから英語は必要ないしーとか。

 最近では英語も必要なのにね。

 あの父さんですら、簡単な日常会話程度なら出来るんだよ。


 「物理と化学は平均以上なんだな」


 「うん。面白いし」


 あと生物ね。あの辺は面白いからスルスルっと頭に入ってくるんだ。

 それでもギリギリ平均点を超えるくらいなんだけど。


 「物理が出来て数学が出来ない意味が分からん」


 「不思議だよねー」


 俺からしたら全くの別モノですし。

 でも理系の人は似たような感じって。

 賢い人の脳みそは良く分かりませんな。


 「とりあえずこの1週間で出来るだけ詰め込むぞ」


 「すみません。よろしくお願いします」


 因みに親身になってくれてるこの男は、試合も見にきてくれる滅茶苦茶良い奴だ。

 見た目はチンピラみたいなのに、学年で10位に入るくらいには頭も良い。


 今度の試合は大晦日で忙しい時期だってのに、クラスの奴らをまとめ上げて観に来てくれるらしい。

 ここまでサポートしてくれてるんだ。

 なんとしてでも赤点を回避して、最高の年明けを迎えてもらう試合にしたいね。

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