第47話 当て感


 「な、なんなんだよあいつ…」


 「分かる」


 「分かるぞ、その気持ち」


 「さあ、お前もこっちの仲間入りだ」


 うむうむ。

 なんか当て感が分かってきたかも。


 別ジムのウェルター級の人をスパーリング相手に招いてから約1ヶ月。

 11月に入り、減量も本格的にスタート。ここからは更に倒しにくくなるぞと思ってたんだけど。

 なんかコツを掴んだっぽい。どこに当てれば倒せるってのが、段々と分かってきた。


 いつも来てくれるスパーリング相手の人が、畏怖の視線を向けてくる。気持ち良い。

 スパーリング三銃士は仲間が出来たとばかりに、自分達の領域へ呼び込んでいる。

 期間限定四銃士になるかもしれんな。


 「寒い時期は中々体重落ちひんから気を付けろよ。直前になって焦らんようにな」


 「うっす。父さんにも言われてるんで、母さんに食事も調整してもらってます」


 「ホンマは成長期の時はたらふく食った方がええんやけどなぁ」


 そうは言ってもですね。

 成長と階級が釣り合ってないのは困る。

 9階級制覇する為には多少の犠牲はつきもの。

 でも将来的にはヘビー級に対抗出来るタッパは欲しい。わがままですみません。


 「じゃ、今日は帰りますねー」


 「おう。お疲れさん」


 帰ってお勉強せねばならんのです。

 まもなく期末テスト。赤点を取ったら母さんにボクシングを没収されてしまう。友達に協力してもらってるものの、家でも復習しないと俺は馬鹿なのですぐ忘れてしまう。



 「ただいまー。ん?」


 家に帰ってきたけど、なんか雰囲気が?

 殺伐としてるような気が? 俺、なんかやらかしたっけ? まだ赤点取ってないんだけど?


 「ああ。拳聖か。おかえり」


 雰囲気の正体は父さん。

 何やら表向きはにこやか感じで聖歌と遊んでるが、これは何やら不機嫌? 母さんと喧嘩でもした? 

 そう思って母さんをチラッと見てみると、特にこれといって。いつも通り鼻歌を歌いながらご飯を作ってらっしゃる。


 「そういえば今日父さんジムに来なかったね?」


 「ああ。それどころじゃなかったんだ」


 なにやら深刻な様子。が、それを聖歌には悟られないようにしてる。

 これは今は聞かないほうが良さそうか。

 後にしましょう。



 そして減量メニューのご飯を食べた後。

 母さんが聖歌と一緒にお風呂に入ってる間に詳しい話を聞いてみる。


 「で、何があった訳?」


 「今日、聖歌の友達が家に遊びに来てたんだ」


 ほう。それはそれは。

 さぞかし微笑ましい光景だった事だろう。

 写真とか撮ってないのかな? 見たかった。


 「それで? そんな自慢話聞きたくなかったよ」


 「友達が二人来てたんだがな。両方男だったんだ」


 「だにぃ!?」


 「将来は聖歌と結婚するとか抜かしやがって…」


 「だにぃ!?」


 「しかも両方だぞ?」


 「だにぃ!?」


 おいおい。おいおいおい。

 それはギルティですよ。

 まぁ、まだ小学生ですし? 子供の戯言と切って捨てるのは簡単だよ? しかし、それを親の前で言うたぁ、中々肝が据わってやがる。

 これは戦争か。戦争だな?


 「大晦日前に大きな仕事が出来ちまったぜ」


 これはよーくお話し合いが必要な案件ですよ。

 と、まぁ、冗談はさておき。


 「まぁ、まだ小学生の言う事に一々間に受けてられないでしょ。これが中学生とか性を覚えた猿が相手なら出るとこ出てたが」


 間違いなく右ボディを突き刺してたね。


 「そうなんだけどなぁ。言ってる間に彼氏とか連れて来るようになるんだぜ…。その事を想像すると動けなくなっちまった…」


 全く。息子の練習を見に来ずに何をしてるんだね。こちとら次もタイトル戦なんだよ。

 しっかりしてよね。


 後、一応その男の子二人の名前を教えておいてもらえる? 将来要注意人物になるかもしれないからさ。

 


 

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