第45話 正式入会
滅茶苦茶すんなり次の試合が大晦日に決まった。
ライト級のOPBFタイトルマッチ。開催まで後三ヶ月切ってるのに、了承してくれるとは思わずびっくりである。年明けだろうなぁと思ってたし。
『ファイトマネーも中々だよ? OPBF戦にしては破格なんじゃないかな? それもあって向こうは了承したのもあると思うよ』
とは電話で話した白鳥さんの談。
相場がどれくらいか分からんが、確かに国内より全然お高い。それでも桁違いって訳じゃないから、白鳥さんの交渉力が火を吹いたんだろう。
ありがたい限りだぜ。もし難航するようなら世界ランク上位との戦いも視野に入れてたんだが。
そっちの方がマッチングしやすそうだしね。
「服部孤南です! 今日からよろしくお願いします!!」
試合も決まったし、本格的に練習と対策をしていくぜと気合いを入れていると、元気よくジムに入ってきたのは孤南君。
あれから親御さんと正式に入会手続きをして来て、今日から本格的に練習するらしい。
「あー拳聖の被害者が増えたぜ」
「かわいそうに」
「なんまいだー」
サンドバッグ三人衆…間違った、スパーリング三銃士が憐れみの目で孤南君をみてるけど、当分は孤南君とスパーリングをする予定はない。
素材は良さそうだけど、まだまだズブの素人だし、スパーリングするまでに覚えなきゃいけない事がたくさんある。それに基礎も出来てない人間を殴ったりしたら本気で危ない。
ボクシングには殴られ方ってのもあるんだ。
その点、三銃士の方々は殴られる事に関しては歴戦のプロ。俺ですら足元に及ばないレベルだ。
お陰で俺も気兼ねなく日々のスパーリングでボコボコに出来る。
「孤南はとりあえず基礎をみっちり叩き込むで。地味でキツい練習になるやろうけど、頑張ってついてこいや」
「はい!!」
本当に地味でキツいからね。
頑張って欲しいもんです。
「グッ…」
「おらおら! どうした! もう限界か!!」
「吐け! 吐いちまえ!」
「回れ回れーい!!」
絶賛回転中の拳聖君。
俺が今何をしてるのかというと、回転椅子に括り付けられて、ぐるぐると回されている。
三半規管を鍛えようと思って始めた。効果があるのかは不明。『超回復』が上手い事仕事してくれないかなぁと思ってます。
スパーリング三銃士が付き合ってくれてるんだけど、それはもう楽しそうにやってくる。
日頃の恨みと言わんばかりにぐるぐると。
「よーし! 時間だ!」
「立たせろ立たせろ!」
「拳聖ー! 踏ん張れよー!」
三十秒回され続けて、そのまま立つ。
で、そのままボディ打ちが始まる訳だ。
あかん、頭がフラフラしよる。
「どうだ拳聖!」
「これが普段味わってる俺達の苦悩だ!」
「思い知ったか!」
やいやい言いながら俺のボディをドスドスと打ってくる三銃士。
これはえぐいな。良いパンチを貰った後に、ボディ貰ったらこんな感じなんだろうか? 耐えられる気がしないんだが。こんなんを食らってもゾンビの様に立ち上がってくる三銃士のみんなは、もしかして物凄くタフなのでは?
ちょっと見直しちゃったね。
「あ、あの…。僕も将来ああなるんでしょうか?」
「あそこまで酷くはないやろ、多分。知らんけど」
「やっていける自信がなくなってきましたよ」
あー意識がやっとはっきりしてきた。
視界がぐわんぐわん揺れて、お腹をしばかれて。
気持ち悪いったらありゃしねぇ。だが、反撃開始じゃい!
「残念! 時間だ!」
「おら! 椅子に座れ!」
「お前は回されるんだよ!」
もう言ってる事犯罪だよ?漢字が違えばお縄ですよ。てか、この練習やばいな。これで本当に効果があるならだけど。良いパンチを貰った後に、どう対処するかの練習には持ってこいかもしれん。
「あ、やべぇ。マジで吐く」
が、3回目辺りで本当に限界を迎えた。
マジで胃から逆流してきた。慌ててトイレに駆け込んだからなんとかなったものの。
その日の三銃士の勝利の雄叫びは煩かったな。
どうにかして俺を嘔吐させたかったらしい。
どれだけ嬉しかったんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます