第46話 上位互換
「ふむ。バランスの良い選手なのかな?」
「まあ、そうだな。拳聖がデビュー戦で戦った小園の上位互換だと思えば良い。アウトボクシングも出来るしな」
ヘムサポって名前らしい。
なんか言いにくい名前。
全体的にまとまってて、インファイトとアウトボクシング両方こなせる万能ボクサー。
まさしく俺。俺はどっちかと言うとアウトボクシング寄りだけど。
「長い間OPBFのタイトルに居座ってるんだよね? 世界挑戦とかしないの?」
「アジアではOPBFを目標にしてる選手も居るからなぁ。それにファイトマネーがそこそこ大きい。あっちの方だとここに長く居座ってるだけで、生涯過ごせるだけの額が稼げるんだ」
ふーん? まぁ、長い間居るだけあって強いんだろうけど、今回の試合を受けた意味が分からないな。世界に挑戦もせずしがみ付いてる大事な場所を明け渡す事になるんだが? もしかして余裕で勝てると思われてるのかしらん?
「まぁ、拳聖は次でプロ四戦目。まだまだ経験が足りてないから勝機はあると踏んだんだろう。向こうはプロアマ含めて100戦以上。それに今回はファイトマネーがでかい。万が一負けても老後の資金には充分なんじゃないか?」
ほー。なるほどねぇ。
良く考えてらっしゃる。
まぁ、負けませんけど。俺は生涯無敗でプロボクサー生活を終えたいのだ。
OPBFで足踏みなんてしてられない。
「今回はスパー相手に別ジムからウェルター級の選手を何人か呼んでいる。外国人は思った以上にパワーがあるからな。同じアジア相手でも、フィリピン人は特にタフで、パンチ力がある。これを機に自分より上の階級の相手との試合も学べ」
「あいあいさー」
ウェルター級か。
5kgぐらいは差がある訳だ。
ボクシングで5kgの差はかなり大きい。
中々倒れないんだろうな。楽しみだ。
「シッ!!」
「ぬおぉぉぉ!」
そして後日。
わざわざ天下ジムまで来てくれたウェルター級の人達とスパーリング。
マジで倒れん。
これは凄い。中々新鮮な体験だ。
スピードは俺の方が上だけど、とにかく耐えられる。
「ガッ!」
カウンターか。それぐらいしか、まともにダウンさせられない。
今もストレートに合わせてクロスカウンターをぶち込んでやった。
ヘッドギアをつけてても、上手く合わせられればなんとかなるな。
「ボディで足を止めて、大振りになってきたところをカウンターで狙うのが良さ気か」
「せやな。拳聖はライト級なら破格のパンチ力やけど、上の階級相手にはまだまだや。一発で仕留めようとせんほうがええやろな」
俺は今の体重がライト級のリミットをちょっと超えたぐらい。
相手の人は今は減量してないので、ウェルター級を大きく超えてるらしい。
それでもカウンターさえ決まれば倒せると分かったのは良い事だろう。
「お疲れ様です!」
「あ、孤南君」
リング際で会長と話してたら、ロードから帰ってきた孤南君がタオルを渡してくれた。
素晴らしい後輩ムーブ。ありがたい限りである。
「ありがとう。練習は慣れた?」
「まだまだです! 走るだけでヒーヒーです!」
結構元気そうだけど。水泳って体力いるもんな。
でもボクシング選手は走らなくなったら終わりだから。是非頑張っておくれ。
「とりあえず週に一回は来てもらうように手配してあるから。中々倒れへん相手の練習を思う存分させてもらえ」
「押忍」
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